Episode3:今日 is ideal day for 初デート<4>

〜キョウ ハ、ハツ デート ビヨリ〜

 聞き(おぼ)えのある声に(かお)を上げると、そこには(わす)れようもない、あの日エデンを助けてくれたサラサラつやめく黒髪(くろかみ)の少年の姿があった。
「……猫神(ねこがみ)……先輩(せんぱい)……っ赤面
 日曜日のショッピング・モールにいるだけあって、さすがに猫神は以前(いぜん)見た制服姿(せいふくすがた)ではない。
 とは言ってもレトのような気合(きあい)の入ったオシャレ()というわけでもなく、年相応(としそうおう)の少年らしい、黒地(くろじ)に白ラインの入ったスポーツ・ウェアだった。
 やや(くず)気味(ぎみ)に着こなされたその服の袖口(そでぐち)(すそ)からは、猫の手足を思わせるほっそりとした手首やくるぶしがのぞいている。
 その姿(すがた)イケメン()ぎて直視(ちょくし)できないレトとは(ちが)い、『学校で(あこが)れている運動部の(さわ)やかな先輩』とでも言うようなほど良い親近感(しんきんかん)(ただよ)っていて、エデンは素直(すなお)なときめき赤面を感じてしまった。
「あ……あの……っ、一昨日は、ありがとうございました……っ!今日は、その……お買い物で……っ。猫神先輩も、お買い物……ですか……っ?赤面汗
「あの日攻撃(こうげき)してきた元・(てき)翌々日(よくよくじつ)には一緒(いっしょ)に買い物、か。短期間(たんきかん)のうちにずい分と仲良くなったみたいだな」
 猫神の言葉には()める様子(ようす)皮肉(ひにく)の色もなかった。ただ、(あき)れともあきらめともつかぬ微妙(びみょう)雰囲気(ふんいき)(ただよ)っていて、エデンは戸惑(とまど)った。
(猫神先輩、何が言いたいんだろう冷や汗?……って言うか、アレ?先輩って、レトの人間姿、見たことあったっけ?……あの時一緒に(たたか)っただけあって、不思議(フシギ)な力とかで分かるのかな?)
「何の用だ?俺は姫君(ひめぎみ)(きずな)を深めるための大事(だいじ)デート最中(さいちゅう)だ。ノラネコジャマをしないでくれないか?」
 (けん)のある目でピリッ威嚇(いかく)ピリッするレトに、エデンはあわてた。
「ちょ……っ、レト!汗先輩は私の恩人(おんじん)なんだよ。そんな(きら)ってるみたいな言い(かた)、やめて汗
 だが猫神は気にする素振(そぶ)りも見せず、未熟(みじゅく)な子どもでも見るようにレトを(なが)め、ため息をつく。
(きずな)を深める、な。それならお前、もっと相手(あいて)様子(ようす)に気を(くば)ったらどうだ?……エデン、お前、ずっと歩きっぱなしだろう。そろそろ休憩(きゅうけい)なり化粧直(けしょうなお)しなり、したいんじゃないか?」
 その言葉に、エデンはすがりつくような目で猫神を見、もじもじとうなずいた。
「お前、ただでさえ緊張(きんちょう)すると調子(ちょうし)(わる)くなるんだから、相手に合わせてムリするんじゃないぞ。ほら、さっさとその泣きそうな顔を直して来い」
 言い方こそぶっきらぼうだが的確(てきかく)にエデンの()()んだその言葉に、精神的(せいしんてき)限界(げんかい)だったエデンは『何で私のこと、こんなに知ってるんだろう?』という疑問(ぎもん)(いだ)余裕(よゆう)すらなく、化粧室(けしょうしつ)の方へと()け出していった。
 (あと)(のこ)ったレトに、猫神はこれ見よがしにため息ため息をついてみせる。
契約の獣(エンゲージド・ビースト)のお前と、人間の、しかも女で子どものエデンとでは、そもそも体力が全然(ぜんぜん)(ちが)う。それにあいつの性格上(せいかくじょう)()れない人間と二人きりなんて状況(じょうきょう)は精神に負担(ふたん)がかかりやすい。その上、それで体調(たいちょう)が悪くなっても、()ずかしくて言い出せなかったりするんだ。……できたばかりの主人(しゅじん)に気に()られようと一生懸命(いっしょうけんめい)なのはいいが、お前、自分をアピールするのに必死(ひっし)で、相手のことをちゃんと見られていなかったんじゃないのか?」
 猫神の言葉に、レトは一瞬(いっしゅん)(おのれ)()じるように(くちびる)()みしめる。だがその(ひとみ)はまたすぐに(けわ)しいものへと変わり、まるで(てき)でも見るようにピリッ(するど)く猫神に向けられた。
「……“ノラ”のくせに先輩面(センパイづら)か。お前のことはコーデリア様の契約の獣(エンゲージド・ビースト)たちに聞いているぞ。どういうつもりで姫君(ひめぎみ)に近づいて来るんだ?」
 その()いに、猫神はすぐには(こた)えなかった。
「……べつに。あいつの父親(ちちおや)(たの)まれているだけだ。あいつを見守るように、とな」

藤花
 
 
<Go to Next→>
  
Episode3−11011121314
 
  このページは津籠 睦月によるラブコメ・ファンタジー小説 「魔法の操獣巫女(マジカル・ビーストテイム・シャーマン)★エデン」の
シンプル・レイアウト(デコレーション・モードLV2)版です。
本文中のアンダーライン部分をクリック(orタップ)すると、別窓に用語解説が表示されます。
 
シンプル・レイアウト版は用語解説フレーム版より後に制作しているため、ストーリーが若干遅れています。
 
 
inserted by FC2 system