Episode3:今日 is ideal day for 初デート<9>

〜キョウ ハ、ハツ デート ビヨリ〜

 意識(いしき)(うしな)ったのはほんの一瞬(いっしゅん)のことで、エデンはふらつきながらも自分の足で()に立っていた。
「気を失う時間がだいぶ(みじか)くなったな。力が()がっている証拠(しょうこ)だ」
「ここ、結界(けっかい)の中……?高梨(たかなし)さんは……?」
「あそこで気を失っています。……災厄の獣(カラミタス・ビースト)一緒(いっしょ)です」
 レトの(ゆび)さす先には、クラスメイトの少女が力無(ちからな)く地に横たわっていた。
 そしてそのそばに、キラキラ(かがや)く光の(つぶ)のようなもの輪郭(りんかく)をふちどられた透明(とうめい)(けもの)姿(すがた)がある。
 獣はこちらを向き、威嚇(いかく)の声を上げているようだった。
光の……(つぶ)?レトの時と(ちが)う」
「いや、あれは(こま)かな(こおり)(つぶ)が光を反射(はんしゃ)して光って見えているだけだ。(やつ)能力(のうりょく)はおそらく“凍結(とうけつ)”か何かなのだろう」
「マズいですね冷や汗我々(われわれ)はともかく、姫君(ひめぎみ)のご学友(がくゆう)がヤツの能力に()()まれた場合、低体温症(ていたいおんしょう)により生命(せいめい)危険(きけん)(およ)可能性(かのうせい)があります」
「そう言えば、ココ(さむ)い……冷や汗。ところどころ、地面(じめん)に雪や氷があるし」
 その結界(けっかい)周囲(しゅうい)鳥居(とりい)にも()たストーンサークルに(かこ)まれているのはいつもと変わらないが、その中は高い山の頂上付近(ちょうじょうふきん)を思わせる岩と石ばかりのゴツゴツした地形(ちけい)がずっと(つづ)き、あちらこちらに雪が()もったり氷が()ったりしていた。
「姫君も早く変身(へんしん)なさってください。姫君の御力(おちから)形成(けいせい)された魔法巫女(まほうみこ)衣装(いしょう)なら、少しは寒さを軽減(けいげん)できるはずです」
 見ると、レトと猫神(ねこがみ)(すで)に例の和洋折衷(わようせっちゅう)武官(ぶかん)束帯(そくたい)姿(すがた)と、神職風(しんしょくふう)浅葱色(あさぎいろ)袴姿(はかますがた)に変わっている。エデンもあわてて変身呪文(へんしんじゅもん)(とな)えた。
キャラメル・キャラメラ・キャラメリゼ……!」
 光に(つつ)まれ一瞬(いっしゅん)で変身を()えると、もはや()れた様子(ようす)空中(くうちゅう)(あらわ)れた(ロッド)片手(かたて)でキャッチする。
「お()たせ……って、え?二人とも、何してるの?汗
 ()り向くと、レトと猫神はなぜか必死に(たが)いの目を(たが)いの手でふさぎ合っていた。
「姫君!ご安心ください!姫君のお()()え……あっ、いえ、“変身”は決して(ほか)の男の目には()れさせませんので!」
「バカを言うな!オレはガキくさい下着姿(したぎすがた)などに興味(きょうみ)はない!むしろ危険(きけん)なのは(あるじ)の変身をそんな不埒(ふらち)な目で見ているお前の方だろう!」
 二人のやりとりに、エデンはテレビでよく見る魔法少女(まほうしょうじょ)の変身シーンを思い出して一気(いっき)に顔を赤らめた。
「え?え!?汗あの……、変身の時に一瞬(いっしゅん)だけ身体(からだ)(かる)くなるように感じるのって……私の服が消えてるからなの!?汗
 エデンの動揺(どうよう)した声に、猫神がレトの手で目をふさがれたまま(さけ)ぶ。
「安心しろ!消えるのは常人(じょうじん)肉眼(にくがん)では(とら)えられないようなほんの一瞬(いっしゅん)だけだ!獣並(けものな)みの動体視力(どうたいしりょく)でもなければ見えないし、見えたとしても光の羽根(はね)毛皮(けがわ)であちこち(おお)われているからハッキリとは見えない!」
「でも、(ねん)には(ねん)()れないと、ですから!チラッとでも見られてしまうのは(ゆる)せませんから!」
「……って言うか、そういうの、早く(おし)えてよ冷や汗!って言うか、だったら変身中は向こう向いててよ、二人とも!」
 ()じらいと本気の(いか)りの()()じった声に、二人もさすがに首をすくめて謝罪(しゃざい)する。それでもエデンはプリプリしたまま、ヤケクソのように声を上げた。
「もうッ!さっさと高梨(たかなし)さん救出(きゅうしゅつ)して、ココを出るよ!」
「そうですね。では姫君(ひめぎみ)、お手を……」
仕方(しかた)がないな。力を()してやろう」
 エデンの声に、レトと猫神が同時(どうじ)(こた)え、同時に手を()し出す。
 見事(みごと)カブった声に、二人は顔を見合(みあ)わせ、(するど)い目でにらみ合った。
「姫君の愛犬(イヌ)(おれ)だけだ。ノラネコ()()んでいてもらおうか」
「お前のような経験(けいけん)(あさ)契約の獣(エンゲージド・ビースト)に何ができる?お前こそ(だま)って見ていろ」
 ()し出された二つの手に、エデンはただオロオロ冷や汗する。
「姫君!貴女(あなた)契約の獣(エンゲージド・ビースト)は俺です!俺の能力(のうりょく)をお使いください!」
「どっちを(えら)ぶんだ?エデン。お前の使いたい方を選べ」
 二人のイケメン顔を近づけてつめ()られ、エデンのオロオロ度合(どあい)はさらに()した
(えっと……えっと……っ汗。能力、(えら)ぶ……んだよね?レトは“念動(ねんどう)”で、猫神先輩(せんぱい)(たし)か……“具現化(ぐげんか)”)
 オロオロしたまま結界(けっかい)の中を目だけでぐるりと見渡(みわた)した(あと)、エデンはぎゅっと猫神の手を(にぎ)った。
「猫神先輩!お(ねが)いします!」
 横でレトがあからさまにショックを受け、ふらりとよろめく。
「なぜですか、姫君っ!貴女(あなた)契約の獣(エンゲージド・ビースト)は、この俺ですよ冷や汗!?」
「え……っ。だ、だって……汗。この結界、()げて攻撃(こうげき)できそうなもの、石コロくらいしかないし……冷や汗猫神先輩の能力の方が相手(あいて)にダメージ(あた)えられそうだし……汗
「そんな……っ。石コロ攻撃(こうげき)だって“チリも()もれば何とやら”ですよっ!」
「あきらめろ。お前の能力は使(つか)勝手(がって)(わる)いんだ」
 レトにトドメの一言(ひとこと)(はな)ち、猫神はエデンの手を強く(にぎ)(かえ)す。
(わざ)の出し(かた)()かっているな?(やつ)攻撃(こうげき)してくる前に、こちらから先制(せんせい)するぞ!」
「う、うん!」

藤花
 
 
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  このページは津籠 睦月によるラブコメ・ファンタジー小説 「魔法の操獣巫女(マジカル・ビーストテイム・シャーマン)★エデン」の
シンプル・レイアウト(デコレーション・モードLV2)版です。
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シンプル・レイアウト版は用語解説フレーム版より後に制作しているため、ストーリーが若干遅れています。
 
 
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