Episode1:Not 魔法少女 But 魔法巫女!<2>
〜マホウショウジョジャナクテ、マホウミコナノ!〜
そこで、エデンは夢から覚めた。
エデンはぼんやりとベッドの上に起き上がり、夢に出てきた懐かしい風景に思いを馳せる。
(……あれは、4年前かな……。あの頃はまだ、パパも皆もいたんだよね……)
平屋建てのこじんまりした日本家屋に、家族三人で、たくさんの動物たちに囲まれて暮らしていた幼い頃の記憶が、今もエデンにとって一番大切な思い出だ。
(あの頃はフシギに思ってなかったけど、パパってば何であんなに動物に好かれてたんだろう?犬(?)のコタちゃんや猫のななちゃんはともかく、フツウは野生の動物たちがあんな風にフツウの家でペットみたいに懐いてるってこと、あんまり無いよね……。しかもあんなにいろいろな種類の動物たちが、ケンカもせずに一緒にいたなんて……)
時計を見ると、目覚ましアラームの5分前だった。
エデンはベッドから下り、制服に着替え始める。二日前に入学したばかりの私立中学の制服だ。チョコレート色のセーラーカラーと、特徴的な形で入った桜色のラインがエデンは気に入っている。
(懐かしいな……。あれからパパが事故でいなくなっちゃって……皆も、いつの間にかいなくなっちゃってたんだよね……。タヌキのミドリに、イノシシのボタン、キツネのコンソメに、サルのパンチ、鹿のビビンバに、犬(?)のコタツ、そして……ななちゃん……)
幼いエデンにとって野生の獣や躯の大きな犬(?)は、触れてはみたいものの何だか少し近寄り難く、唯一安心して可愛がれたのが“ゴハン係”として世話をしていた黒猫だった。
絹のようにつややかな毛並に金色の瞳、細くて長い優美なシッポを持つ美しい黒猫だ。エデンは今でもこの猫が世界で一番美しいと思っている。
(ななちゃん……。今もどこかで生きてるよね……?いつか、また会えるよね?会いたいよ……ななちゃん……)
いつもの願いを胸の中で囁きながら、エデンは窓辺に立ち、フリルとドレープがたっぷりついたカーテンを勢い良く開けた。
その先に広がっていたのは、夢に出て来たこじんまりした庭ではなく、広々としたバルコニー、そしてその向こうに広がる美しいだった。
そう、今のエデンが暮らしているのは、幼い頃に住み慣れた平屋建ての小さな家ではない。明治時代の華族の邸宅を思わせる、広大で華麗で、古めかしい洋館だった。
「……夢と現実のギャップが激しい……」
思わず口に出してつぶやき、エデンは部屋を出る。
繊細な装飾の施された手すり付きの階段を下り、この屋敷の中でもとりわけ広いダイニング・ルームの扉を開けると、そこにはさらに現実味の無い光景が待ち受けていた。
「アラ、エデン。おはようございますでス」
胸元の開いた黒サテンのワンピースに、グロスでつやつやと、豊かに波打つ金髪をナチュラルに肩に流した、まるでハリウッドのセレブ女優のような美女が優雅に微笑み、朝のあいさつをしてくる。
「……おはよう、ママ」
エデンの母・コーデリア。日本での名は、イギリスにいた頃の元の名はコーデリア・クロウリー。彼女こそがエデンの生活を現在の状態へと激変させた張本人である。
「ママ、その格好で会社に行くの……?」
「今日は午前中から新商品の撮影があるのでス。家から直接向かうのでス」
コーデリアも数年前――慈恩がいた頃までは、このような派手な姿ではなかった。長い髪を一つに束ね、服装はいつもシンプルな淡いパステルカラーのコーディネートで、いかにも清楚な母親という雰囲気を漂わせていた。
それが、慈恩がいなくなり『これからはワタシがこの家の大黒柱なのでス!』と言い出して化粧品の会社を立ち上げてからは『社長本人が美のカリスマにならなくては、説得力がありませんのでス!』と、どんどん派手な容姿に変貌していった。
会社は同業者たちから『一体どんな魔法を使ったんだ?』と驚かれるほどのスピードで業績を上げていき、ついには中古物件とは言え、こんな豪邸を購入できるまでになったのである。
とは言えこの引越しに、住み慣れた家を離れたくなかったエデンは猛反対した。だがコーデリアは『エデンにはそのうち、広い住宅が必要になる可能性がアルのでス!』と、よく分からないことを言い張って聞き入れてくれなかった。
そして、この屋敷に越してきてから、さらにエデンを戸惑わせている事態がもう一つ。それは……