Episode3:今日 is ideal day for 初デート<5>

〜キョウ ハ、ハツ デート ビヨリ〜

 エデンが化粧室(けしょうしつ)から(もど)ると、レトと猫神は(まった)く同じ体勢(たいせい)のまま、一言(ひとこと)も口をきかずピリッ険悪(けんあく)雰囲気(ふんいき)ピリッでその場に立っていた。
(……うわぁ……声、かけづら……っ汗。でも、行かないわけにはいかないよね……冷や汗
「えぇ……っと、あの……お()たせ……しました……汗
 エデンがなけなしの勇気を()(しぼ)るようにして声をかけると、途端(とたん)にレトが表情(ひょうじょう)を変えた。
「姫……っ!(もう)(わけ)ありませんでした青ざめ汗!ご不調(ふちょう)に気づかず、ご無理(むり)をさせてしまうなど……っ冷や汗
 そのままその場にひざまづきかねない(いきお)に、エデンの方があわてて汗 しまう。
「い、いいから……っ!べつに気にしてないしっ!そもそも私が勝手(かって)緊張(きんちょう)して具合(ぐあい)悪くなっちゃっただけだし……っ!汗
「これでコイツの気が()むんだから、素直(すなお)(あやま)られておけ。それよりエデン、しばらく休憩(きゅうけい)していたいだろう?上のフードコートでも行くか?」
 猫神は平謝(ひらあや)するレトを無表情(むひょうじょう)(なが)めると、そう言って3階へとつながるエスカレーターを(ゆび)さした。エデンは(なん)となくホッとしてうなずく。
(なん)かいいなぁ赤面、猫神先輩(せんぱい)って。(つか)れないって言うか、自然体(しぜんたい)でいていい気がするって言うか……。何だか、ずっと前から一緒(いっしょ)にいて、何でも分かり合ってる“(おさな)なじみ”みたいなカンジ……。)
 そのまま自然(ナチュラル)に“デート”に合流(ごうりゅう)してきた猫神を、エデンは何の疑問(ぎもん)(いだ)かず、むしろ当然(とうぜん)のように()け入れる。
「お前はとりあえず(せき)でも取っていろ。……冷たいものより身体(からだ)(あたた)めるものの方が()いな。……ホットの紅茶(こうちゃ)ティーカップ にミルクと砂糖(さとう)、でいいか?」
 フードコートに()いてからも、猫神は(みずか)主導権(しゅどうけん)(にぎ)り、テキパキと物事(ものごと)(すす)めていく。だがその(すべ)てが、エデンの(この)みから今一番()しいものまで何もかも把握(はあく)しているかのような完璧(かんぺき)なリードぶりだった。
 エデンはまるで母親(ははおや)世話(せわ)をされる幼児(ようじ)のように、安心して全てを(ゆだ)ねることができた。
 だから、そんな猫神がエデンとレトの二人を残し飲み物を買いに行こうとした時、エデンは心細(こころぼそ)さから思わず声を()らしてしまった。
「あ……っ汗
 だが、その先の言葉(ことば)(つづ)かない。
 まだここにいて()しい。レトと二人きりにしないで欲しい――だが、それをレトの目の前で(くち)にするのはさすがにはばかられた
 猫神は引き()めるようなエデンの(ひとみ)を見つめ(かえ)した後、その目をレトへと(うつ)した。そのまましばらく言葉も()視線(しせん)()わし合う。
 猫神の目に無言(むごん)圧力(あつりょく)を感じたレトは、しばらくの間、(あらが)うように無言の笑顔(えがお)(こぶし)(にぎ)りしめていたが、結局(けっきょく)は何かをあきらめるようなため息ため息とともに立ち上がった。
「……姫君(ひめぎみ)、お茶なら(おれ)が買って来ます。貴女(あなた)はここで待っていてください」
 エデンに向けられた精一杯(せいいっぱい)の笑顔は、どこか痛々(いたいた)しかった。
「ありがとう、レト。…………ごめんね」
 エデンは心の(そこ)から申し訳なく思って頭を()げる。ぺこり
 レトが悪いわけではない、むしろ一生懸命(いっしょうけんめい)()くそうとしてくれていることは分かっている。けれど、それをすんなり受け入れるには、エデンには対人(たいじん)経験(けいけん)――(とく)異性(いせい)に対する経験が少な()ぎた。
 どこかしょんぼりして見えるレトの背中(せなか)を見送り、エデンは重いため息ため息をつく。そんなエデンの頭を、猫神が無造作(むぞうさ)ぽん()でてきた。
「……あまり気に()むな。出会って2、3日でそこまで距離(きょり)をつめられるほど、お前は器用(きよう)じゃないだろう?人にはその人なりの人づき合いのペースがある。無理をすれば(つか)れてしんどくなるだけだ。少しずつ、お前のペースで進めばいいんだ」
「……猫神先輩」
 (むね)にじわりとあたたかいものを感じ、エデンは()きそうな顔で猫神を見つめた。
 猫神の手がエデンの(かみ)から(はな)れていく。
 その瞬間(しゅんかん)ちりん という(かす)かな鈴の()とともに、猫神の服の袖口(そでぐち)(あざ)やかな赤い色の何か(のぞ)いた。
「それは……っ」
 何か予感(よかん)めいたものに()き動かされ、エデンは気づけば猫神の(うで)()らえていた。腕をとられた拍子(ひょうし)(そで)がずれ、金の鈴がついた赤い組紐(くみひも)ブレスレット(あらわ)になる。
「この、ブレスレットは……?」
 エデンの脳裏(のうり)にかつての愛猫の面影()ぎる。黒い毛並(けなみ)によく似合(にあ)う、赤い組紐(くみひも)に金の鈴の首輪(くびわ)。首の(うし)ろで(はし)ちょうちょ結びにしたその首輪が、かつての愛猫“ななちゃん”のトレードマークだった。
 今目の前にあるブレスレットは、その首輪によく()ている。
(……あれ?でも、よく見ると、ちょっと……(ちが)う?ななちゃんの首輪の(ひも)赤一色(あかいっしょく)だったけど、この紐には黒が()じってる……。)
 猫神の(うで)()かれたそれは、(はし)から数センチにかけての部分が、まるで空気に()れて酸化(さんか)した血のような黒い色をしていた。
 猫神はエデンの顔から目を()らそうとでもするように、ブレスレットに視線を落とし、(ひも)の赤い部分をそっと()でた。
「これか……。これはオレの……“生命線(せいめいせん)”だ」
「え……?」

藤花
 
 
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  このページは津籠 睦月によるラブコメ・ファンタジー小説 「魔法の操獣巫女(マジカル・ビーストテイム・シャーマン)★エデン」の
シンプル・レイアウト(デコレーション・モードLV2)版です。
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シンプル・レイアウト版は用語解説フレーム版より後に制作しているため、ストーリーが若干遅れています。
 
 
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