Episode3:今日 is ideal day for 初デート<14>

〜キョウ ハ、ハツ デート ビヨリ〜

 次にエデンが目を()ましたのは、自室の天蓋(てんがい)()きベッドの中だった。
(……あれ?私……結局(けっきょく)また気を(うしな)っちゃったんだっけ?……レトが(はこ)んでくれたのかな?)
 クラスメイトの少女を()れて災厄の獣(カラミタス・ビースト)結界(けっかい)脱出(だっしゅつ)したことは(おぼ)えている。だがその後のことが(みょう)におぼろげで、上手(うま)く思い出せない。
(今、何時だろう?レトはどうしてるのかな?)
 とりあえず部屋を出てリビングの方へ向かってみる。
 『レトがいたら迷惑(めいわく)かけたことを(あやま)ろう』と思って()けた(とびら)の先に、目当(めあ)ての姿(すがた)はなかった。()わりに、エデンを今日こんなトラブル(つづ)きのデートに向かわせた張本人(ちょうほんにん)・アズライトが鼻歌(はなうた)♪を歌いながらテレビ台の()掃除(そうじ)をしていた。
「ん?お嬢様(じょうさま)!目が()めたんですねー!良かった良かった。レトの(やつ)()(さお)な顔で心配してましたよー」
 相変(あいか)わらずへらりとしたその顔に、今日味わった数々の出来事(できごと)走馬灯(そうまとう)のように(よみがえ)り、エデンは思わずムッ(怒)として口を(ひら)いていた。
「アズライトさん!今日私とレトがデートした方がいいなんて、(まった)くのウソじゃないですか!具合(ぐあい)(わる)くなるし、クラスメイトに目撃(もくげき)されちゃうし、災厄の獣(カラミタス・ビースト)(あらわ)れるしで、最悪(さいあく)でしたよ(怒)!」
 だがアズライトはへらへらした顔を全く(くず)さない。
「いやー、大変でしたねー。レトの(やつ)からも聞いてますよ。まさか災厄の獣(カラミタス・ビースト)が出て来るとは。(おれ)の“予感”じゃそこまで(こま)かいことは分かりませんからねー」
「だからっ!どうしてソレで『今日デートした方が私のためになる』ってことになるんですか(怒)!?」
 (まゆ)をつり上げてつめ()るエデンに、アズライトは笑顔(えがお)のまま、思いもよらない言葉を返してきた。
「いや、そりゃ俺にも分かんないっすよ」
「…………は?」
「つーか、俺は『今後のお嬢様(じょうさま)ためになる』とは言いましたけど『今日のデートが楽しくて良いものになるだろう』なんて一言(ひとこと)も言ってないですよ?そもそもこの世の中、自分の『ためになる』ことが楽しかったり面白(おもしろ)かったりするとは(かぎ)らないじゃないっすか。身体(からだ)には良くてもメチャクチャまずい食べ物があったりするようにっすねぇ……」
「そ……それはそうかも知れないけど……。私、今日デートすれば何かいいことがあるんだって、思ってたもん……汗
 エデンは自分が早とちりをしていたことに気づいたが、面白がっているようなアズライトの顔がシャクで、(なん)だか素直(すなお)(あやま)ることができなかった。
「んー……まぁ、今日はイマイチな一日だったとしても、これからイイことがあるかも、ですよ。『今後のためになる』ってことは、今日お嬢様が()こした行動のうちのどれかで、今後の良い展開(てんかい)をもたらす何かしらのフラグが立ったってことだと思うっすから。まぁ、それが何で、これからどんなことが起こるのかは、俺には()めねぇっすけどね」
 明るく笑ってそう言うアズライトに、エデンは何だか(おこ)ったりムキになったりするのがばからしくなってきた。
「……そういうもの、なんだね冷や汗。……ごめんなさい、()つ当たりみたいなことして」
「いや、いいっすよ。俺、いっつもこんなんだから、アンバーやマイカにもいっつも(おこ)られてるし。あいつらの(いか)りに(くら)べたら、お嬢様のなんて仔猫(こねこ)ちゃん仔猫のカンシャク(怒)みたいで可愛(かわい)らしいもんですよ」
 その言葉に『へらへら笑ったままアンバーに怒鳴(どな)られているアズライトの図』が自然(しぜん)と頭に()かび、エデンは思わず()き出していた。
「……(たし)かに、いっつも怒られてそう。(とく)にアンバーさんとか、すっごく(こわ)そう」
 気づけばエデンはムカついていたことも、勘違(かんちが)いに気づいて小さな罪悪感(ざいあくかん)を感じていたことも(わす)れ、ほっこりした()みを()かべていた。
「……でも何か、いいですね。最悪な一日にあったことが、これから起こる素敵(すてき)な何かのフラグになってるなんて。そう(かんが)えれば今日の散々(さんざん)(はつ)デートも、少しはマシに思えるかな……?」
「まぁ少なくとも、今日一日でレトの(やつ)のお嬢様へのラブ()確実(かくじつ)にアップしてますね。『姫君が俺の身を(あん)じてくださった』『ご自分の具合より俺の命の方が大事だと(あつ)(かた)ってくださった』ってノロケまくってましたし」
 自分の知らぬ()()わされていたとんでもない会話内容(ないよう)に、エデンの顔は一瞬(いっしゅん)にして()()赤面()まる。
「ノ、ノロケって……ち、(ちが)うもん冷や汗!レトを心配するのは(こい)とかじゃなくて……もっと家族的(かぞく)なアレで汗!……って言うか、レトってば何を勝手(かって)に言いふらしてるの!?ちょっと(つか)まえて、一言(ひとこと)言っておかないと!赤面汗
「あー、レトの奴なら今、厨房(ちゅうぼう)でこき使われてるっすよー」
 後輩(こうはい)をかばう気がまるで無いアズライトがアッサリ居場所(いばしょ)をバラすと、エデンは(れい)を言ってすぐさまリビングを飛び出す。猛烈(もうれつ)(いきお)いで走り()っていくエデンを見送った後、アズライトはふいにへらへらした笑みを引っ()真顔(まがお)になった。
「……過去(かこ)を気にする素振(そぶ)りはない。暗示(あんじ)()けていないみたいだなー……」
 口調(くちょう)にはまだ(かる)調子(ちょうし)(のこ)っているが、その声には一切(いっさい)感情(かんじょう)が無かった。
「でも、(かなら)その時は来る。お嬢様(じょうさま)には今のうちに強くなっておいてもらわないとだな……。旦那様(だんなさま)かお嬢様かの二者択一(にしゃたくいつ)なんて、そんな(つら)選択(せんたく)をあの(かた)にさせるわけにはいかないしなー……」
 本能(ほんのう)(かん)じ取ったままに、(かれ)はつぶやく。その不穏(ふおん)な“予感”を知る者は、現時点でまだ彼一人だけだった……。

episode3-end
 
 
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  このページは津籠 睦月によるラブコメ・ファンタジー小説 「魔法の操獣巫女(マジカル・ビーストテイム・シャーマン)★エデン」の
シンプル・レイアウト(デコレーション・モードLV2)版です。
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シンプル・レイアウト版は用語解説フレーム版より後に制作しているため、ストーリーが若干遅れています。
 
 
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