Episode3：今日 is ideal day for 初デート＜10＞

〜キョウ ハ、ハツ デート ビヨリ〜

　エデンはレトの方をチラチラ気にしながらも、覚悟を決めたようにうなずいた。
（この前のパパの技(わざ)みたいな感じでいけばいいんだよね？……“おもち”つながりはさすがにダサいから……）
　エデンは猫神(ねこがみ)とつないでいない方の手で杖(つえ)を振り上げ、災厄の獣(カラミタス・ビースト)目がけて勢(いきお)いよく振(ふ)り下(お)ろした。
「」
　直後、杖の先端(せんたん)から色とりどりののようなビビッド・カラーのマカロン と、のマシュマロ、そして細(こま)かな迷路のような網目(あみめ)模様(もよう)のマスクメロンがキラキラとプリズムの光をまき散(ち)らしながら次々と飛び出していく。それはそのまま矢のようなスピードで災厄の獣(カラミタス・ビースト)へ向かっていった。
　災厄の獣(カラミタス・ビースト)も迎(むか)え撃(う)とうとするように行動を起こす。低くしていた首を上げ、鋭(するど)く咆哮(ほうこう)を上げた。
　その声は雪原(せつげん)を吹(ふ)き荒(あ)れるブリザードのような凍(い)てつく風を巻(ま)き起こし、エデンの放(はな)ったに真(ま)っ正面(しょうめん)からぶつかっていった。
　マカロンやマシュマロやマスクメロンの群(む)れは、一瞬(いっしゅん)にして凍(こお)りつき、音を立てて地に落下(らっか)する。
「あぁーっ！ 失敗(しっぱい)しちゃった！」
　悔(くや)しそうに叫(さけ)ぶエデンを、猫神が真顔(まがお)で振(ふ)り返(かえ)る。
「……それは失敗もするだろう。マスクメロンはともかく、マカロンとマシュマロってのは何だ。なぜ、もっと攻撃力(こうげきりょく)のありそうなものを選(えら)ばない？」
　猫神の呆(あき)れ果(は)てた眼差(まなざ)しに、エデンはショボンとうなだれる。
「だって……パパのも似(に)たような技だったし……」
「慈恩(じおん)は技名の和菓子(わがし)そのままではなく、想像力(そうぞうりょく)でアレンジを加(くわ)え、攻撃性(こうげきせい)を高める工夫(くふう)をしていた。敵(てき)にただ甘い菓子(かし)を投げ与(あた)えてどうするんだ」
「い……一応(いちおう)、すごい勢(いきお)いでぶつけようとしてみたし……」
「お前、何をエラそうに姫君(ひめぎみ)に説教(せっきょう)しているんだ!?姫君はまだ初心者(しょしんしゃ)なんだぞ！これだけの物を具現化(ぐげんか)できれば充分(じゅうぶん)じゃないか！」
　猫神の小言(こごと)にささやかな抵抗(ていこう)を見せるエデンにレトが加勢(かせい)し、収拾(しゅうしゅう)がつかなくなりかけたその時、再(ふたた)び災厄の獣(カラミタス・ビースト)が吠(ほ)えた。
　物を一瞬(いっしゅん)で凍(こお)りつかせる絶対零度(ぜったいれいど)の強風(きょうふう)が、今度はエデンたちに襲(おそ)いかかる。
「危(あぶ)ないッ」
　猫神はとっさにエデンを抱(かか)えて左に跳(と)び、レトは逆(ぎゃく)に右に跳んで攻撃(こうげき)を避(よ)ける。
「エデン！もう一度だ！新しいイメージが浮(う)かばないなら、また慈恩(じおん)の技を使えばいい！このまま獣(ビースト)に攻撃(こうげき)を続けさせれば、結界内の気温が下(さ)がっていく一方だ！」
「……って言うか、もう既(すで)にだいぶ寒(さむ)いよ……っ。何だか、脚(あし)が冷たいし、おなかも冷(ひ)えて痛(いた)い……っ」
　エデンはぶるぶるながら両腕(りょううで)で腹(はら)を抱(かか)えてうずくまる。猫神は「しまった」と言いたげに唇(くちびる)を噛(か)んだ。
「……そうか。お前、体調(たいちょう)が戻(もど)りきっていなかったな。その状態(じょうたい)でこの冷気(れいき)は毒(どく)でしかない、か」
「姫君！ここは一旦(いったん)退却(たいきゃく)しましょう！集中力(しゅうちゅうりょく)を欠(か)いた状態(じょうたい)で魔法(まほう)を操(あやつ)るのはムリです！あのストーンサークルの中に１つだけ、外へ通(つう)じる“門(ゲート)”があります！そこをくぐれば結界を出られますから！」
「でも……高梨(たかなし)さんを置(お)いてはいけないよ……っ！」
　足元から這(は)い上(あ)がってくるような冷気に身を震(ふる)わせながら、エデンが叫(さけ)ぶ。
　するとレトが何かを決意(けつい)したように目をキッと細め、倒(たお)れ伏(ふ)す少女の方を見た。