Episode3:今日 is ideal day for 初デート<6>

〜キョウ ハ、ハツ デート ビヨリ〜

エデンがその意味をくわしく()こうとしたその時、まるで二人をジャマしようとするかのように足音(あら)くレトが(もど)って来た。
「お()たせしました!お茶をお持ちしました!」
 声は(あら)く、だが手つきはあくまで丁寧(ていねい)に、レトがテーブルに紅茶(こうちゃ)ティーカップ()ったトレーを()く。
 エデンは思わずビクッとして、猫神から手を(はな)した。
「……姫君がお心を(ゆる)しているからと言って、少々気安(きやす)くし()ぎじゃないのか?姫はお前の主人じゃないんだ。ベタベタと(さわ)らないでもらおうか
「その口振(くちぶ)り……、まるで主従(しゅじゅう)だったならベタベタ(さわ)って良いとでも言いたげだな。お前の方こそ、契約の獣(エンゲージド・ビースト)としての()をわきまえているのか?」
 すぐにまた険悪(けんあく)雰囲気(ふんいき)(ただよ)わせ始める二人に、エデンは(あせ)る。
「もう……っ、だから、何でそんなケンカ(ごし)なの?二人とも……っ!汗
 エデンが思わず声のボリュームを大きくしたその時、ちょうどその(せき)(うし)ろを通ろうとしていた少女が思わずというように声を()らした。
「……え?……鈴木さん……?」
 (おぼ)えのあるその声にエデンがハッとして()り向くと、そこにはエデンより見た目2〜3才ほど年が上に見える大人(おとな)びた印象(いんしょう)の少女が立っていた。()()ぐな黒髪(くろかみ)(あたま)の高い位置でポニーテールにし、白のトップスに紺色(こんいろ)無地(むじ)のハイウエスト・スカートを合わせたその立ち姿(すがた)は、どこか凛として()”の雰囲気(ふんいき)(ただよ)っている。
 最近(さいきん)顔を(おぼ)えたばかりのその少女の名を、エデンは呆然(ぼうぜん)としてつぶやいた。
ピ……じゃなくて……高梨(たかなし)……さん」
 それは、まだ二言三言(ふたことみこと)くらいしか言葉(ことば)()わしたことのない、花ノ咲理学園(はなのさかりがくえん)のクラスメイトの少女だった。
(どうしてココに……っ、って言うか、市内のショッピング・モールにクラスの子がいても、べつに(なん)不思議(フシギ)もないか冷や汗。うわぁあ……っ、油断(ゆだん)してたよ……っ汗イケメン二人(かこ)まれた、すっごく状況説明(じょうきょうせつめい)のしづらいこの場面(ばめん)を、思いっきり見られちゃったよ……っ!赤面汗
 エデンが赤面(せきめん)赤面 してうろたえていると、少女の横からサングラスをかけた若い男が不思議(ふしぎ)そうに顔を出してきた。
「ん……?どしたんだ、モモキチ。その子、お前のトモダチか?」
(あ……、高梨(たかなし)さんも()れがいたんだ。でも……(だれ)だろう?お兄さん?まさかカレシ、とかじゃない……よね?)
 エデンがきょとんとしていると、少女はどこか気まずそうに連れの男を()(かえ)り、言葉少(ことばすく)なに説明(せつめい)する。
「クラスメイト。鈴木さん」
 その短過(みじかす)ぎる説明に、エデンは何だか(なつ)かしいものを感じて数日前を()り返る。
(あいかわらず無口(むくち)なんだなぁ、高梨さん。学校でもこんな感じで、なかなか仲良くなれないんだよね……冷や汗
 彼女は実はエデンが(ひそ)かに「友達になりたいなぁ」と思ってアプローチを(こころ)みている相手だった。
 独特(どくとく)雰囲気(ふんいき)を持った和風美人である彼女はエデンとは別の意味で他のクラスメイトたちから注目(ちゅうもく)され、何かと話しかけられている。
 だが、いつでも、(だれ)が相手でも、二言三言の(みじか)い言葉で会話(かいわ)終了(しゅうりょう)してしまい、それ以上話が続かない。
 エデンとはまた別の意味で“コミュニケーションが上手(うま)くいっていない感”が(ただよ)う少女なのである。
 エデンが「この先の会話、どうしよう冷や汗困惑(こんわく)していると、少女の連れの男が口元をほころばせてエデンの方へ身を()り出してきた。
「そっかぁ〜。モモキチのクラスメイトかぁ! こんな所で会うなんて奇遇(きぐう)だねー! このコさぁ、どうせガッコでもこんな感じで人との間に(カベ)作っちゃってるっしょ?でもさ、口下手(クチベタ)なだけで(ワル)いコじゃないんだよね。この機会(きかい)にキミ、友達になってやって……」
 男の怒涛(どとう)(もう)アピールは、だが、ドスッという(おも)い音と(とも)()()まれた少女のヒジによりムリヤリ中断(ちゅうだん)させられた。
「うるさい」
「……ッ、ヒド……っ!汗 何でここでヒジ打ちとかすんのさ!汗 (おれ)はただ、モモちゃんの学校生活を心配(しんぱい)してだな……」
余計(よけい)なお世話(せわ)()ずかしいからやめて」
 少女は不機嫌(ふきげん)さ丸出しの顔でそう言うと、(おどろ)(かた)まっているエデンを()り返り、(みじか)()う。
「鈴木さん、身体(からだ)具合(ぐあい)はもういいの?」
 感情(かんじょう)()めないその問いに、エデンはぼんやり思い出す。
(あ……、そっか。私、一昨日(おととい)早退(そうたい)したから……)
「うん。もう大丈夫(だいじょうぶ)。ありがとう高梨さん」
 にっこり微笑(ほほえ)んで(れい)を言うと、少女は一瞬(いっしゅん)沈黙(ちんもく)した後、表情(ひょうじょう)の無い顔で片手をひらひらさせた。
「じゃあ」
 あいかわらず短過(みじかす)ぎるあいさつと(とも)()っていく少女に笑顔(えがお)のまま手を()り、エデンは(むね)ほっこり したものを感じていた。
(たし)かに、悪い子じゃなさそう。私が早退(そうたい)したの(おぼ)えててくれて、気遣(きづか)ってくれたくらいだもん。……友達に、なれるかなぁ?なれるといいな……)
 だが、一人ほっこりしているエデンとは対照的(たいしょうてき)に、猫神はやけに(けわ)しい目で少女の()凝視(ぎょうし)している。
「……エデン、あの(むすめ)、お前のクラスメイトだと言ったな?」
「え……?うん。そうだけど。同じクラスで、出席番号(しゅっせきばんごう)が2コ後ろの高梨さん」
「クラスメイト……と、言うことは……学校の敷地内(しきちない)で目をつけられたのでしょうか……」
 レトまで深刻(しんこく)な顔で何事(なにごと)(かんが)()み始める。
「え?え?汗 何?高梨さんがどうかしたの?」
 一人“おいてけぼり”状態(じょうたい)のエデンが戸惑(とまど)いながら問うと、猫神とレトが同時に重々(おもおも)しくうなずいた。
「……あぁ。“どうか”している。あの(むすめ)災厄の獣(カラミタス・ビースト)(ねら)われているぞ」

藤花
 
 
<Go to Next→>
  
Episode3−11011121314
 
  このページは津籠 睦月によるラブコメ・ファンタジー小説 「魔法の操獣巫女(マジカル・ビーストテイム・シャーマン)★エデン」の
シンプル・レイアウト(デコレーション・モードLV2)版です。
本文中のアンダーライン部分をクリック(orタップ)すると、別窓に用語解説が表示されます。
 
シンプル・レイアウト版は用語解説フレーム版より後に制作しているため、ストーリーが若干遅れています。
 
 
inserted by FC2 system