Episode3:今日 is ideal day for 初デート<7>

〜キョウ ハ、ハツ デート ビヨリ〜

「なーモモキチ、機嫌(きげん)(なお)せよ冷や汗。アレだろ?モモキチにも学校で作ってるキャラとかあるから家での様子(ようす)ベラベラしゃべられるとイメージ(くず)れる、みたいなヤツだろ?悪かったって汗。ホラ、にーちゃん、もうほとんど社会人みたいなモノだからさぁ、そういう学生ノリからは(とお)ざかっちまってさー汗
「……今でも充分(じゅうぶん)男子学生ノリなクセに」
 少女は義兄(あに)()り向きもせず、()()てるようにつぶやく。
「ホラホラ、お目当(めあ)てのファンシーグッズ屋さんだぞー。今日はカワイイ義妹(いもうと)入学祝(にゅうがくいわ)いってことでフンパツしてやるからな。バッグでもアクセでも何でもオネダリしていいぞ!だからホラっ、機嫌(きげん)直せって汗
 男はそう言い、愛らしいペンギンペンギンペンギン の絵があしらわれた雑貨屋(ざっかや)看板(かんばん)を指さす。少女はムスッとしたまま店頭(てんとう)の商品を物色(ぶっしょく)しだした。
(……失敗(しっぱい)したため息。市内のお店で同級生に遭遇(そうぐう)する可能性くらい、考えれば分かるのに。よりによって義兄(にい)ちゃんと一緒(いっしょ)のところを見られるなんてため息
 彼女(かのじょ)は元々、自分のプライベートを他人(ひと)に見られたくない性質(たち)の人間だった。今までも、(した)しい友達ですら滅多(めった)に家に(まね)いたことはない。まして単なるクラスメイト相手には何重にも予防線を張り、プライバシーに立ち入られないようにしてきた。
 それには彼女の、ちょっぴり特殊(とくしゅ)家庭環境(かていかんきょう)影響(えいきょう)しているのだが……。
「これ」
 少女は短い一言とともに義兄(あに)の目の前にマスコットを()き出す。
 ボールチェーンがついてバッグの()()などに取り付けられるタイプのマスコットで、彼女が小学生の(ころ)よく見ていた教育番組に登場するキャラクターだった。
「そんなのでいいのかよ?もっと高価(たか)いのねだっていいんだぜ」
「いい。ほとんど仕事も無いような“名ばかり芸能人(げいのうじん)”に高価(こうか)なモノなんてねだれない。メグちゃんも、その(ふと)(ぱら)ぶってやたらと他人(ひと)におごりたがるクセ、直したら?そのうち(いた)い目、見ると思う」
「……うわー……。ソレ、地味(じみ)(きず)つく冷や汗(あい)()わらずモモキチは辛口(からくち)だなぁ冷や汗
 (へこ)みました、とアピールするかのように大ゲサに頭を(かか)えてみせる男に、少女はチクリと(むね)の痛みを(おぼ)える。
(……また、かわいくない言い(かた)になったため息説教(せっきょう)なんてしたって、ウザがられるだけかも知れないのに)
 表情は変えないまま無言(むごん)になってしまった少女に、男はふっと口元をゆるませる。
「いや、ウソウソ。家族(かぞく)としての愛のムチだってちゃんと分かってるって。昔っから俺にそういうキビシイこと言ってくれんの、モモキチだけだもんなー
 その声には本心がにじんでいて、彼が本気でうれしく思っているのだということを雄弁(ゆうべん)物語(ものがた)っていた。だが、だからこそ余計(よけい)に、少女は複雑(ふくざつ)な気持ちになる。
(“家族”……か。どうせお義兄(にい)ちゃんにとって私は、口うるさいオカン(てき)ポジションでしかないんだろうけどため息
「つーかさ、マジでコレがいいのか冷や汗?コレ、カワイイか?」
 少女の手からマスコットを受け取り、しげしげと(なが)めながら、男が首をかしげる。
「……カワイイ。ヘンに()てない(ところ)がイイの」
 男はそれでも納得(なっとく)がいかないように何度も首をかしげていたが「じゃあ会計(かいけい)してくるな」と言ってレジへ向かっていった。
 少女はいつものように店内を(なが)めながら義兄(あに)を待つ。一緒(いっしょ)にレジに(なら)んで店員に「ご兄妹(きょうだい)ですか?」あるいは「美男美女(びなんびじょ)カップルでお似合(にあ)いですね」などの余計(よけい)一言(ひとこと)をかけられるのが、彼女は何よりキライなのだ。
『……(ウマ)ソウダ』
 ふと、そんな声が聞こえた気がして、彼女は背筋(せすじ)ゾクッとさせて()り返る。
 だが店内は女性客ばかりで、先ほど聞こえた不気味(ぶきみ)な声の持ち(ぬし)がいるようには見えない。
(……(つか)れてるのかな、私青ざめ。……でも、さっきのゾクッとする感じ、(おぼ)えがある。(たし)か、学校の中を見て回っていた時……)
 少女が(みずか)らの記憶(きおく)をたどろうとしたその時、(ふたた)び“声”が聞こえた。しかも今度は、耳元でささやくように。
(ウマ)ソウダ。(ワカ)(ムスメ)ノ生命力……。(アワ)(コイ)ノ不安ニ()レル、ソノ心ノ(ヨドミ)……。オ前ヲ()ラエバ、キット今ヨリ強クナレル……』
 彼女はハッとして声のした方を()り返ろうとする……が、できなかった。強い目眩(めまい)とともに、急速(きゅうそく)意識(いしき)が失われていく。
(……お義兄(にい)……ちゃん……)
 こんな時に一番(たよ)りにならないであろう人物(じんぶつ)と知りながら、それでも少女は義兄(あに)に助けを求めようとした。だが、もはや彼女には(くちびる)も、指先一本ですら、動かすことができなかった。
 何が起きているのかも分からないまま、少女は引きずり込まれていく。災厄の獣(カラミタス・ビースト)のテリトリーの中へと……。

藤花
 
 
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  このページは津籠 睦月によるラブコメ・ファンタジー小説 「魔法の操獣巫女(マジカル・ビーストテイム・シャーマン)★エデン」の
シンプル・レイアウト(デコレーション・モードLV2)版です。
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シンプル・レイアウト版は用語解説フレーム版より後に制作しているため、ストーリーが若干遅れています。
 
 
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