Episode3:今日 is ideal day for 初デート<8>
〜キョウ ハ、ハツ デート ビヨリ〜
「高梨さんが災厄の獣に狙われてるって、何で?高梨さんにも私みたいな力があるってこと?」
時間はわずかに遡って、エデンが少女を見送った少し後。少女とその義兄の後ろを、見失わないギリギリの距離で尾行しながらエデンが問う。
「……いや。あの娘にそんな力は感じない」
「じゃあ、何で?」
「災厄の獣が狙うのは、姫君のような御力を持った人間ばかりではありません。姫君よりはずっとレベルが落ちますが、生命力そのものも、獣を生き永らえさせる“糧”となります。中でも特に、心にある種の澱を抱えた人間なら、他の人間よりもずっと獣の空腹を満たし、力を高めてくれるのです」
「お前のような人間を狙うのは、収穫も大きいが返り討ちに遭うリスクも高いからな。要するに、あの娘を狙っているのはローリスク・ローリターンを求めるタイプの獣、ということだ」
「……心の澱って……。高梨さん、確かに無口だけど、そんな悪いコには見えなかったけどなぁ……」
エデンの納得いかなげなつぶやきに、レトが苦笑して口を開く。
「姫君。心の澱というのは何も、醜い感情のカタマリとは限らないのですよ。たとえば他人に言えない片想いを心の内に抱えて一人悩んでいるとか、癒えない心の傷だとか……そういうどこにも行き場のない感情が心の中で渦巻いているのが“心の澱”なのです」
「……だからこそ、最悪なんだがな。あの学園が奴らの溜まり場になっているのは。思春期の男女など、奴らにとって格好の標的だ」
「え……っ!?それって、花ノ咲理学園のこと……?
」
聞き捨てならないことを耳にし、エデンが猫神に問い質そうとしたその時――レトが険しい表情でエデンの肩をつかんできた。
「奴が動きました!結界が開きます!姫君のご学友を自らの領域に引き込むつもりです!」
「えっ!?ダ、ダメだよ、そんなの……っ
!高梨さんを助けないと!
」
「分かっている。奴の結界に割り込むぞ。いいな?エデン」
「うん!」
猫神がレトが手を置いていない方の肩に手を乗せてくる。
いつものくらりとした目眩が襲ってきたが、今のエデンはそれを恐れることもなく、素直に受け入れた。
