Episode4:From today on,あなたは My Friend<5>

〜キョウ カラ、アナタ ハ ワタシ ノ ズットモ〜

(やっぱり時間に限りのある休み時間とかお昼休みじゃ、いろいろキビシイものがあるよね。ここはもう、放課後どこかに(さそ)って、ゆっくり話してみるしかないかな)
 結局彼女とロクに話もできないまま迎えた帰りのホームルーム、エデンは頭の中で計画を(めぐ)らせる。
(どこに誘おうかな。高梨さんって何通学なんだっけ?校外よりむしろ学校の自販機(じはんき)コーナーとか……)
 アレコレ考えているうちに、いつの間にかホームルームは終わっていた。周りの生徒が動き始めてやっとエデンは我に返る。
(ピ……高梨さんは……っ!?汗
 立ち上がって教室を見渡すと、ちょうど彼女がドアから出て行くところだった。エデンはあわてて(カバン)をつかみ、後を追って教室を飛び出す。
 ポニーテールの凛とした後ろ姿は、スタスタと足早に遠ざかっていく。引き()めようとしたエデンは、思わず声を上げていた。
「待って……っ、ピーチちゃん!」
 真っ()ぐな背中が、ぴたりと立ち止まる。……だけでなく、その場にいた生徒全員、もれなくこちらを()り向いた。エデンはハッと口を押さえる。
 ――高梨桃姫。それが彼女のフルネーム。そしてエデンが彼女と「仲良くなりたい」と思った最初のキッカケだった。
 彼女の名前を初めて聞いた時、エデンは衝撃(しょうげき)を受けた。同世代にキラキラネームは数多くあれど“楽園(エデン)”以上にインパクトのある名前など、そうそう存在しないと思っていたのだ。
(スゴい……。私よりキラキラネームな人なんて初めて。きっと桃姫(ピーチ)ちゃんも名前で苦労してるんだろうなぁ。仲良くなって同じ苦労をグチり合いたいなぁ)
 エデンはそんなことを思った。そしてずっと、彼女と仲良くなる機会を(うかが)っていたのだ。
 廊下中(ろうかじゅう)の注目が集まる中、桃姫(ピーチ)はくるりと振り向いた。そのまま表情も変えずにスタスタ近づいて来て、キッパリと告げる。
「『ピーチ』って呼ばないで。その名前、嫌いなの」
 そしてすぐにエデンに背を向け去って行ってしまう。表情こそ変わらないものの、その気配はいつもよりピリッピリピリピリッとがっている気がした。桃姫の気持ちがよく分かるエデンは己のウッカリ発言に青ざめる青ざめ
(どうしよう……っ、私、地雷(じらい)()んじゃった……!?汗
 しばらくはショックのあまり硬直(こうちょく)していたエデンだったが、すぐに、今自分のやるべきことを思い出す。
(あやま)らなきゃ……!悪気(わるぎ)は無かったんだって、『私も自分の名前で()ずかしい思いしてきたから気持ちは分かるよ』って、ちゃんと弁解(べんかい)しなきゃ……!)
 あわてて桃姫の(あゆ)み去って行った方へ走り出す。廊下の角を曲がり、階段を()け下り、(おど)り場へ……。その時、ふいにピリッピリッと静電気のようなものを感じて、エデンは立ち止まった。
(今の……レトの結界に引き込まれる直前に感じたのと同じ……?)
 直後、いつもの目眩(めまい)(おそ)ってくる。エデンは(あせ)った。
「もうッ!今はそんな場合じゃないのに!桃姫(ピーチ)ちゃんを見失っちゃう……!汗
 文句(もんく)を言ってもどうにもならず、世界の形が曖昧(あいまい)にぼやけていく。輪郭(りんかく)を失い、色のついたモヤのように変化した景色(けしき)が、どっと押し()せて来た。そのままエデンは結界の中へと引きずり()まれていく。
「やだ……っ!戦いたくない……っ!汗
 無我夢中(むがむちゅう)で、もがくように手を()ばしたその時、声が聞こえた。
「エデン!」
 視界もぼやけていく中、誰かが手を(にぎ)ってくれたのを感じる。その手のぬくもりに、なぜだかエデンの脳裏(のうり)に、(なつ)かしい黒猫の姿が一瞬浮かんで、消えた。

 
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  このページは津籠 睦月によるラブコメ・ファンタジー小説 「魔法の操獣巫女(マジカル・ビーストテイム・シャーマン)★エデン」の
シンプル・レイアウト(デコレーション・モードLV2)版です。
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シンプル・レイアウト版は用語解説フレーム版より後に制作しているため、ストーリーが若干遅れています。
 
 
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