Episode4:From today on,あなたは My Friend<3>

〜キョウ カラ、アナタ ハ ワタシ ノ ズットモ〜

 エデンはその後、休み時間のたびに彼女の元へ行き、仲良くなろうと話しかけた。
 だが、相変(あいか)わらず彼女との会話は長く続かない。仲良くなれているのかどうか――彼女がエデンのことをどう思っているのかさえ分からないまま、気づけば昼休みになっていた。
(ど、どうしよう……お弁当、どこで食べよう……汗
 花ノ咲理学園(はなのさかりがくえん)には給食がない。昼食は家から持ってくるか購買(こうばい)や学食で買うことになっている。
 エデンも母の契約の獣(エンゲージド・ビースト)たちが手作りした弁当を持参(じさん)していた。だが、問題はどこで(だれ)とそれを食べるか、である。
 エデンが学校を一日休んでいた間にもクラスの女子たちのグループ化は進んでいたらしく、昼休みになるとすぐに教室のあちこちでグループ同士、(つくえ)をくっつけ合う動きが始まった。すっかり取り残されたエデンはアワアワ汗しながら彼女を探す。
「た……高梨(たかなし)さん……っ汗
 うろたえるエデンの目に、彼女が別のクラスメイトに話しかけられている姿が映り、エデンは心臓をきゅっと(わし)づかみにされたような気分を味わった。
(え……っ、高梨さん、一緒(いっしょ)に食べる相手がいるの?どうしよう……っ汗、私、ぼっちになっちゃう……っ!)
 だが、そのクラスメイトはくるりと()り返り、エデンにも声をかけてきた。
「鈴木さん。良かったら鈴木さんも一緒に食べない?」
「……えっ?」
 思いがけない(もう)()きょとんとしたまま固まるエデンに、そのクラスメイトは微笑(ほほえ)みかけた。
「私のこと、(おぼ)えてくれてる?クラス委員長の久留宮(くるみや)だけど」
 まだ入学して日の(あさ)いエデンでも、その人物のことはさすがに覚えていた。
 入学式で新入生代表のあいさつを行い、クラスでは当たり前のように委員長に選ばれていた、見るからに頭の良さそうな眼鏡(めがね)美人だ。
「あ、うん。久留宮(くるみや)……裕佳子(ゆかこ)さん」
 記憶(きおく)から引っ()り出したフルネームで呼ぶと、少女は一瞬だけ苦々(にがにが)しげに顔をしかめた……ような気がしたが、あまりに一瞬のことだったので、エデンは『気のせいか』と思った。
(みんな)からは“くるみ”って呼ばれてるんだ。良かったら鈴木さんもそう呼んで」
 会話を初めて一分も()たないうちに許されたニックネーム呼びに、エデンは軽く感動する。彼女との関係に一向(いっこう)進展(しんてん)が見られなかっただけに、そのフレンドリー心に()みた
「久留宮だから“くるみ”なんだね。よろしく、くるみちゃん。私のことも……」
 苗字(みょうじ)ではなく、もっと(した)しみを込めた呼び方をしてもらおう……と思い、だがエデンはすぐに言葉を途切(とぎ)れさせた。
(どうしよう……下の名前では呼ばれたくないんだけど……冷や汗
 エデンは自分の名前にコンプレックスを持っている。キラキラネーム(めずら)しくなくなった今の世代の中にあっても、エデンという名前は注目を()びる。友達から下の名前で呼ばれるたびに周りの人々が()り返ってこちらを見てくるという状況(じょうきょう)は、エデンにとってひどく不本意なものだった。
 言葉を途中(とちゅう)で止めたまま動かないエデンを、くるみが不審(ふしん)そうに見つめてくる。一瞬ビミョウな空気が流れかけたが、直後、そんな空気を()(はら)う優しい声が(ひび)いた。
「ユカちゃん、ハイ、お弁当」
 ()いただけで心が(なご)みそうな、ほんわりと(やわ)らかい声だった。だが、くるみは途端(とたん)に目つきを(けわ)しくする。
「“くるみ”だって言ってるでしょ、まゆ」
「あっ……そっか。そうだったわね、くるみちゃん」
 あわてて言い直し、その少女は(こま)ったように微笑んだ。

 
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  このページは津籠 睦月によるラブコメ・ファンタジー小説 「魔法の操獣巫女(マジカル・ビーストテイム・シャーマン)★エデン」の
シンプル・レイアウト(デコレーション・モードLV2)版です。
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シンプル・レイアウト版は用語解説フレーム版より後に制作しているため、ストーリーが若干遅れています。
 
 
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