〜キョウ カラ、アナタ ハ ワタシ ノ ズットモ〜
結界から出ても、エデンはもう気を失うことはなくなっていた。
「
桃姫はくるりと
「私に、何か用事でも?」
「あの……っ、ゴメンね!高梨さんを
「……いいよ。本名なんだし、
その声にも顔にも、もう怒りの
とりあえず、嫌われたままで終わるという、最悪の
だが、その先に何を言ったら良いか分からず、エデンはもじもじする。
(
何か言いたげなのに何も言えないでいるエデンに、桃姫も
そのまま行ってしまうでもなく、だが何を言うでもなく、ただ
奇妙な
(どうしよう。会話……会話しなきゃ。でも、何を話したら……?)
困り果てて視線をウロウロさせるエデンは、その時ふと、あるモノを見つけた。
「あれ……それ、『』の、花マル王子?」
桃姫の
思わず
「知ってるの?『花マルぽにぃ』」
「え?うん。私、王子のお
エデンが答えると、桃姫はほんの少し、目を
「……初めて会った。私以外で、花マルぽにぃが好きって人」
「あ、うん……子ども向け番組だもんね。でも、花マル王子の
「
そのまま、気づけばエデンと桃姫は『花マルぽにぃ』のどこがどう面白いかという話題で
桃姫のテンションは、一見ほとんど変わっていないように見えたが、口数は明らかに増えていた。
場所を変えることさえ思いつけないまま、そのまま
「これ、
「ああ!昨日
それは桃姫が無意識のうちに、エデンに心を
「昨日、お義兄ちゃん、私のこと『モモキチ』って呼んでたでしょ?あれ、私の名前が『モモキ』って読めるから、そこからもじって『モモキチ』になったの」
「そっか。普通は桃に姫だとモモキだもんね……」
そこでエデンはハッと思いついた。
「あの……高梨さんさえ良ければ、その……モモキちゃんって、呼んでいい?」
桃姫は一瞬無言になり、まじまじとエデンを見返した後、コクリとうなずいた。
「うん。ピーチより、モモキの方が、ずっといい。じゃあ、私は鈴木さんのこと、何て呼んだらいい?」
「えっと……どうしよう。私も、エデンそのまんまだと、外で呼ばれた時に
しばらく、二人して「ああでもない、こうでもない」と
やがて桃姫がふっと顔を上げた。
「『すずちー』は、どう?」
「えっ?」
「鈴木さんだから、すずちー。『すず』って、
その瞬間、エデンの胸に何とも言えない感情が。
ような、ような、するような……。
「うん!それがいい!それで呼んで!」
迷いもためらいも無く、気づけばエデンは笑顔でうなずいていた。
桃姫は少し
「……すずちー」
「ありがとう、モモキちゃん」
名前を呼び合い、
(……あれ?何だか、いつの
友情の全てが、
ほんのささいな共通の話題をキッカケに、いつの間にか仲良くなれていることもある。
けれど、そんな“いつの間にか”も、そのキッカケとなる何かに気づけなければ、始まらない。
こうして、ささやかなキッカケから、気づけば始まっていたエデンと桃姫の友情。
それはこの先、二人が大人になっても、年をとっても、ずっと続いていくことになるのだが……この日の二人はまだ、そのことを知らない。
「また明日ね、モモキちゃん」
「うん。また明日。すずちー」
今はただ、何となく仲良くなれたことにホッとして、エデンは
それは、二人の友情の、始まりの日の
いつかの遠い未来に「そう言えば私たち、何かキッカケで仲良くなれたんだっけ?」と忘れてしまうほどにささやかな……けれど、二人にとってかけがえのない、とても大切な日の出来事だった。