Episode4:From today on,あなたは My Friend<11>

〜キョウ カラ、アナタ ハ ワタシ ノ ズットモ〜

 結界から出ても、エデンはもう気を失うことはなくなっていた。
 (おど)り場に(もど)ったエデンは、すぐにまた階段を()け下り、桃姫の後を追いかける。
()って、高梨さん!」
 昇降口(しょうこうぐち)を出て、そのさらに先……校門まで()びる並木道(なみきみち)途中(とちゅう)で、エデンはやっと追いついた。
 桃姫はくるりと()り返り、無表情にエデンを見つめる。
「私に、何か用事でも?」
「あの……っ、ゴメンね汗!高梨さんを()ずかしがらせるつもり、無かったのに……。私も、名前がこんなだから、よく周りからヘンな目で見られて……だから、その……っ汗
 意気込(いきご)んでは来たものの、エデンは結局、しどろもどろにしか(あやま)れなかった。
 上手(うま)く話せない自分に落ち込み、うなだれるエデンを、桃姫はただじっと見つめていたが、やがて静かに()げた。
「……いいよ。本名なんだし、仕方(しかた)ない。自分の名前が(きら)いだって、まだ鈴木さんに言ってなかったし」
 その声にも顔にも、もう怒りの気配(けはい)は無い。
 とりあえず、嫌われたままで終わるという、最悪の事態(じたい)()けられたようだ。
 だが、その先に何を言ったら良いか分からず、エデンはもじもじする。
(ゆる)してはもらえたけど……まだ“友達”になれたわけじゃない、よね……。何をしゃべったらいいんだろう。友達って、何をどうしたら、なれるのかな……?)
 何か言いたげなのに何も言えないでいるエデンに、桃姫も戸惑(とまど)いを見せ始めた。
 そのまま行ってしまうでもなく、だが何を言うでもなく、ただ(こま)ったようにエデンの出方(でかた)を待っている。
 奇妙な沈黙(ちんもく)が続き、エデンはあせる汗
(どうしよう。会話……会話しなきゃ。でも、何を話したら……?汗
 困り果てて視線をウロウロさせるエデンは、その時ふと、あるモノを見つけた。
「あれ……それ、『花マルぽにぃ』の、花マル王子?」
 桃姫の手提(てさ)げカバンに付いたマスコットに、エデンは見覚(みおぼ)えがあった。
 思わず記憶(きおく)にある番組名とキャラクター名を口走ると、桃姫がピクリと反応(はんのう)した。
「知ってるの?『花マルぽにぃ』」
「え?うん。私、王子のお(とも)のお馬馬の『ぽにぃ』が好きで……」
 エデンが答えると、桃姫はほんの少し、目を見開(みひら)いた。
「……初めて会った。私以外で、花マルぽにぃが好きって人」
「あ、うん……子ども向け番組だもんね。でも、花マル王子の毒舌(どくぜつ)っぽい所、大きくなってからの方が()さる心に刺さると思うんだけどな」
(たし)かに。子どものうちには、本当の面白(おもしろ)さが分からないと思う」
 そのまま、気づけばエデンと桃姫は『花マルぽにぃ』のどこがどう面白いかという話題で()り上がっていた。
 桃姫のテンションは、一見ほとんど変わっていないように見えたが、口数は明らかに増えていた。
 場所を変えることさえ思いつけないまま、そのまま道端(みちばた)で話し続け……そのうち桃姫は、大切そうにマスコットに()れて、言った。
「これ、昨日(きのう)、お義兄(にい)ちゃんに買ってもらったの。あのショッピングモールで」
「ああ!昨日一緒(いっしょ)にいた人、おにいさんだったんだね」
 普段(ふだん)なら決して自分から話題に出したりなどしない義兄(あに)のことを、気づけば桃姫はするりと口にしていた。
 それは桃姫が無意識のうちに、エデンに心を(ゆる)し始めたからなのだが……この時の桃姫は、まだそんな自分自身の変化に気づいていない。
「昨日、お義兄ちゃん、私のこと『モモキチ』って呼んでたでしょ?あれ、私の名前が『モモキ』って読めるから、そこからもじって『モモキチ』になったの」
「そっか。普通は桃に姫だとモモキだもんね……」
 そこでエデンはハッと思いついた。
「あの……高梨さんさえ良ければ、その……モモキちゃんって、呼んでいい?
 桃姫は一瞬無言になり、まじまじとエデンを見返した後、コクリとうなずいた。
「うん。ピーチより、モモキの方が、ずっといい。じゃあ、私は鈴木さんのこと、何て呼んだらいい?」
「えっと……どうしよう。私も、エデンそのまんまだと、外で呼ばれた時に()ずかしい赤面んだよね……」
 しばらく、二人して「ああでもない、こうでもない」と(なや)む。
 やがて桃姫がふっと顔を上げた。
「『すずちー』は、どう?」
「えっ?」
木さんだから、すずちー。『すず』って、(ひび)きがカワイイし」
 その瞬間、エデンの胸に何とも言えない感情が湧いてきた
 うれしいような、くすぐったいような、わくわくするような……。
「うん!それがいい!それで呼んで!」
 迷いもためらいも無く、気づけばエデンは笑顔でうなずいていた。
 桃姫は少し()()き、おずおずとその名前を呼ぶ。
「……すずちー赤面
「ありがとう、モモキちゃん赤面
 名前を呼び合い、微笑(ほほえ)み合って、エデンはふと思った。
(……あれ?何だか、いつの()にか、友達っぽくなれてない?)
 
 友情の全てが、劇的(げきてき)に始まるわけではない。
 ほんのささいな共通の話題をキッカケに、いつの間にか仲良くなれていることもある。
 けれど、そんな“いつの間にか”も、そのキッカケとなる何かに気づけなければ、始まらない。
 
 こうして、ささやかなキッカケから、気づけば始まっていたエデンと桃姫の友情。
 それはこの先、二人が大人になっても、年をとっても、ずっと続いていくことになるのだが……この日の二人はまだ、そのことを知らない。
「また明日ね、モモキちゃん」
「うん。また明日。すずちー」
 今はただ、何となく仲良くなれたことにホッとして、エデンは()り行く桃姫に大きく手を()る。
 それは、二人の友情の、始まりの日の出来事(できごと)
 いつかの遠い未来に「そう言えば私たち、何かキッカケで仲良くなれたんだっけ?」と忘れてしまうほどにささやかな……けれど、二人にとってかけがえのない、とても大切な日の出来事だった。

Episode4End
 
<続き(Episode5)は準備中です。>
  
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  このページは津籠 睦月によるラブコメ・ファンタジー小説 「魔法の操獣巫女(マジカル・ビーストテイム・シャーマン)★エデン」の
シンプル・レイアウト(デコレーション・モードLV2)版です。
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シンプル・レイアウト版は用語解説フレーム版より後に制作しているため、ストーリーが若干遅れています。
 
 
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