魔法巫女エデン

Episode1:Not 魔法少女 But 魔法巫女!<7>

〜マホウショウジョジャナクテ、マホウミコナノ!〜

「あの……っ、私、これでどうやって戦えばいいんですか?」
 
「……今回は(おれ)が力を()してやる。俺の能力は“具現化(ぐげんか)”。頭の中のイメージを形にする能力だ。攻撃(こうげき)のイメージを頭に()かべ、それにふさわしい言霊(ことだま)(つむ)げ…………と言っても、初心者のお前には(むずか)しいだろうな」
 
 説明を聞きながら(すで)にもう『いっぱいいっぱい汗』という顔をしているエデンに、少年はため息ため息をついて向き直った。
 
仕方(しかた)がない。特別に俺の記憶(きおく)()せてやる。今回はコレ真似(まね)すればいいだろう」
 
 言いながら、少年はエデンの(うで)を引き()せ、顔を近づけていく。
 
「…………えっ?」
 
 こつん(ひたい)に額が()れる。瞬間(しゅんかん)、エデンの頭の中にある映像が流れ()んで来た。まるで映画か何かでも見ているようにハッキリ浮かぶその光景の中にいるのは、エデンにとってあまりにも見覚(みおぼ)えのある人物で……
 
「……えっ?パ、パパ……?汗
 
「分かっただろう?今回はとりあえず、慈恩(じおん)(わざ)を使えばいい。簡単(かんたん)呪文(じゅもん)だから一度で(おぼ)えられたな?」
 
 額を(はな)し、少年が()いかける。だがエデンは混乱(こんらん)してしまってそれどころではない。
 
「え!? パパもこんな(ふう)にアレと戦ってたんですか!? って言うか、呪文って……アレが!?汗
「……言いたいことは分かるが、話は(あと)だ。それにお前のセンスも大概(たいがい)親譲(おやゆず)だぞ」
 
 さりげなくセンスについてけなされた気がしたが、エデンは聞かなかったことにして(つえ)(かま)える。(ひたい)を通して()せてもらった父の姿(すがた)そのままに杖を(にぎ)った手を前に()き出すと、その(こぶし)を少年が後ろから、エデンの背中(せなか)()しに両手で包み()んだ。
 
(……あ、何か、あったかい ……。このカンジ、すごく(なつ)かしいような……)
 
 手のぬくもりを通して、身体の中に不思議(ふしぎ)な力のようなものが流れ込んで来るのが分かる。
 
「行くぞ!エデン!」
「は、はい……っ!えっと……きなこ・あんころ・さくらもちっ!」
 
 ただ食べ物の名前を(なら)べているようにしか思えないその“呪文(じゅもん)”をエデンが(とな)えた次の瞬間、杖の先からキラキラ(かがや)きらきら粉末状(ふんまつじょう)のものが災厄の獣(カラミタス・ビースト)目がけて飛び出していった。
 
 それを浴びた途端(とたん)(けもの)はまるで目や鼻にきなこ状の(こな)でも()りかけられたかのように身悶えだす
 
 “攻撃”はそれで止まらず、次は小豆大(あずきだい)の光の弾丸(だんがん)が次々と獣の身を射抜(いぬ)き、悲鳴を上げて地に(たお)()した獣を、さらにはさくら色のねっとりした巨大なもち状の物体サンドして完全に動きを(ふう)じ込めた。
 
 エデンはほっため息安堵(あんど)の息をつくとともに、ひどく複雑(ふくざつ)表情(ひょうじょう)になる。
 
「……『きなこあんころさくらもち』って……パパ……冷や汗
 
「……ネーミングはともかく威力(いりょく)はなかなかのものだろう。センスについては直そうとして直せるものでもないし、あきらめるしかない。そもそも(むすめ)に“楽園(エデン)”と名付けるような父親なんだからな、あいつは」
 
 言葉ではけなしながらも、その口調(くちょう)にはどこかあたたかい情のようなものが感じられた。エデンは不思議(ふしぎ)に思って口を(ひら)く。
 
「あの、あなたはパパとどういう……」
 
 だが、エデンはその問いを最後まで口にすることができなかった。
 (ねば)つく物体に(から)めとられ、(はげ)しくもがく(けもの)悲痛な声が耳に入ったためだ。エデンはハッとして災厄の獣(カラミタス・ビースト)()り返る。
 
大丈夫(だいじょうぶ)だ。あいつの動きは封じられている。お前が技を解除(かいじょ)しない(かぎ)り攻撃してくることはない」
「でも……何だかあのコ、かわいそう。苦しそうだし……」
 
 悲鳴を上げてもがく獣の姿が、エデンにはまるで虐待(ぎゃくたい)されている動物のように見えた。自分がそれをしたのだと思うと、ひどく胸が痛む
 
「……自分を攻撃してきた相手に対しても、そんな風に思うのか。そういう所も、父親にそっくりだな……」
「え……?」
 
 少年はエデンの顔をしばらく見つめると、何かをあきらめるように一つ大きなため息ため息をついた。
 
「お前ならあいつを(すく)うことができる。あいつと契約(けいやく)()わし、あいつを“災厄の獣(カラミタス・ビースト)”ではなく、魔法巫女(おまえ)(したが)う“契約の獣(エンゲージド・ビースト)”にするんだ。そうすれば、あいつは力有る人間を(おそ)わなくてもお前の力を()て生き()びることができるし、お前はあいつの持つ能力を自分のモノにすることができる」
 
「そんなことができるの?」
 
「ああ。この国ではかつて陰陽師(おんみょうじ)やその系譜(けいふ)を受け()ぐ神官たちがオニと呼ばれるモノたちを(したが)わせて(おのれ)使鬼神(しきがみ)とし、西洋では魔女(まじょ)悪魔と呼ばれるモノたちと契約を交わし魔力(まりょく)を得てきた。お前はその両方のを受け継ぐ者。あいつの(あるじ)となる資質(ししつ)を持っている」
 
「分かった。やってみる」
 
 エデンは少年のそばを(はな)れ、ひとり災厄の獣(カラミタス・ビースト)の前に立つ。獣はエデンを目にすると獰猛(どうもう)うなり声を上げた。エデンはその声に足をすくませながらも、おそるおそる()びかける。
 
「あの……ね、ごめんね。ひどいことして。でもね、あんな(あぶ)ないモノを飛ばして人を攻撃(こうげき)するのはダメなの。分かってくれるよね……?」
 
 (なだ)めるような、(さと)すような、攻撃性(こうげきせい)の全く無いその声に、獣のうなり声は様子(ようす)をうかがうかのように小さくなる。その様子に安心して、エデンは身を乗り出す。
 
「あのね、こんな風にして力のある人を(おそ)わなくても、私と契約(けいやく)すれば、あなた、生き()びることができるんだって。だから、仲良くしようよ。だから私の“契約の獣(エンゲージド・ビースト)”に……」
 
 言いながら、エデンはふとその言葉に違和感(いわかん)(おぼ)えた。
 
(……“契約の、獣”……?それって何か、(ちが)う気がする。何だかそれじゃ、契約で仕方(しかた)なくつき合ってるってだけの冷たい関係みたい……。せっかくなら、もっとフレンドリーアットホームな関係がいいな。パパと、パパに(なつ)いてたあの動物たちみたいな……)
 
 (なや)んだ(すえ)、エデンはふっと(ひらめ)いた
 
「あなた、私と契約(エンゲージ)して、私の愛犬(ワンコ)わんこラブになってよ!」
 
 そのセリフに、背後(はいご)で少年がその場に崩れ落ちそうになる。だがエデンはまるで気づかず、満足(まんぞく)そうな微笑(ほほえ)みを浮かべた。
 
(うん!このコって何だか大型犬(おおがたけん)っぽくも見えるし、ピッタリ!うち、あんなに広いのにペットが一匹(いっぴき)もいなかったもんね。本当は、あのお屋敷(やしき)似合(にあ)いそうなゴールデン・レトリーバーとか()ってみたかったんだかど、まぁ仕方(しかた)ないか)
 
 獣はどこかきょとんわんこ?としたようにエデンの微笑(ほほえ)みを見つめていたが、やがて「キュウン」と()いて「服従(ふくじゅう)します」とでも言うように頭を地に()せた。
 
「……どうやら契約(けいやく)承諾(しょうだく)したようだな。エデン、こいつに名を付けてやれ。それで契約は完了(かんりょう)する」
 
「え……っ?名前……?そんな急に言われても……。じゃあ、えっと……“レト”で」
 
 とっさにゴールデン・レトリーバーから名を取り、エデンは歩み()ってきた少年を振り返る。
 
「あの……そう言えば、今さらなんですけど、あなたの名前って……。それに、何者……」
 
 言いかけ、エデンはふいに(おとず)れた目眩(めまい)にうずくまった。通学バスからこの“結界”の中に引き込まれた時と同じ、世界が(ゆが)み、ぐるぐる回るようなひどい目眩(めまい)だ。
 
 少年はエデンの(かた)に手を()れ、(ささ)えるようにしながらそっとささやいた。
 
「……猫神(ねこがみ)。俺は“猫神”だ」
 
 朦朧(もうろう)とする意識(いしき)の中、エデンは自分が元の制服姿に(もど)り、スクールバスの中に戻って来たということだけは(さと)った。だが、それでも目眩は(おさ)まらず、身体中(からだじゅう)がひどく重くて動くことができない。
 
「え……っ!? その子、どうしたの!?」
 
 バスに同乗(どうじょう)していた女生徒(じょせいと)の声が、どこか遠くから(ひび)いているように聞こえる。
 
「どうやら貧血(ひんけつ)のようです。俺が保健室(ほけんしつ)まで()れて行きます」
 
 すぐそばから聞こえてくるのは、あの少年の声だ。
 
(……(ねこ)(がみ)……。……猫神…先輩(せんぱい)……?)
 
 目を開けることもできぬまま、エデンは猫神に横抱(よこだ)きに(かか)え上げられ、連れて行かれる。
(そんな……()って……。こんな、人生初(じんせいはつ)お姫様抱っこなのに……気を(うしな)うなんて、もったいな……)
 そんなことを考えながら、エデンは本格的(ほんかくてき)意識を失っていった

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Episode1−1
 
  
このページは津籠 睦月によるラブコメ・ファンタジー小説  
魔法の操獣巫女(マジカル・ビーストテイム・シャーマン)★エデン」の 
シンプル・レイアウト版です。
 
 
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