魔法巫女エデン

Episode1:Not 魔法少女 But 魔法巫女!<4>

〜マホウショウジョジャナクテ、マホウミコナノ!〜

 エデンの(かよ)私立(しりつ)花ノ咲理学園(はなのさかりがくえん)中等部(ちゅうとうぶ)専用(せんよう)の通学バスを持ち、いくつかのバス乗り場を巡回(じゅんかい)して生徒たちを(ひろ)っていく。
 エデンはそんなバス乗り場の一つでバスを()ちながら、心の中で自分に気合(きあい)を入れていた。
(今日こそは、もっと(みんな)と仲良くならないと!教室でちょっとおしゃべりする程度(ていど)じゃなく、一緒(いっしょ)に遊んだりとかいろいろできる“友達”を作らなきゃ!)
 父親の()けた独特(どくとく)な名前と、よくよく目を()らして見れば「ひょっとしてハーフ?」と気づかれるようなやや色素(しきそ)(うす)(かみ)と目の色により、エデンに話しかけてくれるクラスメイトは入学初日から結構(けっこう)確率(かくりつ)存在(そんざい)した。
 だが小学生の(ころ)と変わらず、昨日(きのう)一昨日(おととい)も、母親やイギリスに(かん)する質問に上手(うま)く答えられず、がんばって()わりの話題を()ろうとするも空回(からまわ)りばかりしてビミョウな空気を作ってしまったエデンなのである。
(この学校、知ってる子、少ないんだもん。しっかり友達作りしておかなきゃ、これからの学校生活(スクール・ライフ)(かか)わってくるもんね)
 失敗続きの2日間を思い出してほんのり(へこ)みつつも、エデンの心はリベンジに()えていた。早い段階(だんかい)でいかにクラスメイトたちと良好な関係性(かんけいせい)(きず)けるかで今後(こんご)の1年間が変わってくると言っても過言(かごん)ではないのだ。事態(じたい)切実(せつじつ)だ。
(そう言えば、このバスに同じクラスの子、乗ってたりしないのかな?通学路(つうがくろ)一緒(いっしょ)だと仲良くなりやすいよね……)
 到着(とうちゃく)したバスの(とびら)(ひら)くなり、エデンはタイムセールのワゴンからお目当(めあ)ての(しな)(さが)し出そうとするかのような必死さで車内を見渡(みわた)していった。だが、そのせいで足元への注意がすっかりおろそかになる。
 気づけばエデンは車内へ上がるステップの段差(だんさ)を思いきり()(はず)していた。
「きゃ…………っ汗
(……ヤバいっ、(ころ)んじゃう……!しかもこの体勢(たいせい)のままじゃ、すっごく派手(はで)にコケちゃうよ……っ!青ざめあせ
 一気に血の()が引く。エデンは無意識(むいしき)に身を(かた)くし、これから(おとず)れるであろう衝撃(しょうげき)(そな)えた。
 だが、長いようで短い一瞬(いっしゅん)の間の後に訪れたのは、想定(そうてい)していたのとはまるで(ちが)う『ぽすん』というごくごくソフトな衝撃(しょうげき)だった。
「…………え?」
「……大丈夫(だいじょうぶ)か?」
 頭上(ずじょう)から()ってきたのは、どこか(なつ)かしい(ひび)きを持つ……だが、(まった)く知らない少年の声。
 おそるおそる視線(しせん)を上げると、そこには(きぬ)のようにツヤめくサラサラの黒髪(くろかみ)にふちどられた、線の細い印象(いんしょう)の少年の顔があった。
 エデンはすぐには状況(じょうきょう)把握(はあく)できず、ただ呆然(ぼうぜん)とその顔を見上げる。
(え……っと……(だれ)、だっけ……?(なん)だか、やけに(なつ)かしいような気がするけど、思い出せない……。って言うか、今のこの状況は……?)
 (ほお)に感じる制服の生地(きじ)感触(かんしょく)と、(ささ)えるように()に回された(うで)のぬくもりに、エデンは(おく)ればせながら、自分が(かれ)()きとめて助けてもらったことを(さと)る。
「わっ、うわわわわわわっ……汗 あ、あ、ありがと……う、ご、ございます……っ!赤面あせ
 動揺(どうよう)のあまり言葉(ことば)上手(うま)く出て来ない。彼はにこりともせずにエデンを見つめると、無言(むごん)でその体勢(たいせい)(ととの)えさせ、さっさとバスに乗り()んでいってしまった。
 だがエデンはその()(ぎわ)、彼の(くちびる)からこぼれた小さなつぶやきを聞き(のが)さなかった。
「……ったく、相変(あいか)わらず(あぶ)なっかしいやつ……」
「え……?」
(この人、私のこと知ってる……?何だかこの人を見てると、()きたいくらいに(なつ)かしくなる……これは、気のせいじゃ、ない?でも、思い出せない。分からないよ。この人、(だれ)なの……?)

 思うがままに質問を()びせたかったが、彼はもはやエデンの方など一切(いっさい)見ておらず、その横顔からは『話しかけるな』と言わんばかりの威圧感(いあつかん)が感じられた。
 エデンはしかたなく、少し(はな)れた座席(ざせき)から、(まど)の向こうの景色(けしき)を見るフリをしながらチラチラと彼の姿(すがた)をながめることにする。
「ねぇねぇ、あのヒト、なんかカッコよくない?クール美少年ってカンジ。あんなヒト、うちのガッコにいたっけ?」
「あの校章(こうしょう)の色、2年だよね。でも、見覚(みおぼ)えないなぁ……。あんなタイプ、うちの学年にいたかなぁ?」
 (すで)に車内にいた女子二人組が、彼の方を指差(ゆびさ)してヒソヒソささやくのが聞こえてくる。
(2年生……。じゃあ、一年先輩(センパイ)なんだ)
 さっきから心臓(しんぞう)ドキドキ(はげ)しく脈打(みゃくう)って()()かない。それがステップを()(はず)しかけたせいなのか、それとも別の何かのせいなのか、エデンには判断(はんだん)がつかなかった。
(話しかけたい……なぁ。でも、何だか近寄(ちかよ)りがたい感じがするし、心臓がドキドキ()ぎて上手くしゃべれない気がする……。それに、そもそも(なん)て言って話しかけたらいいのか分からないよ……っ。)
 エデンがそんな(ふう)にモヤモヤ(なや)んでいる間にも、バスはどんどん進み、学園に近づいていく。
 中高一貫(ちゅうこういっかん)で多数の生徒(せいと)(かか)える花ノ咲理学園(はなのさかりがくえん)は、(おか)(……と言うより、もはや小規模(しょうきぼ)な山)をまるごと一つ敷地(しきち)に持つ広大な学校だ。そんな学校の敷地への入口を(しめ)す立て看板(かんばん)の横をバスが通り()けた瞬間(しゅんかん)、エデンは(みょう)違和感(いわかん)(おぼ)えた。
(……え?何?今、なんか(はだ)がピリッピリッ としたような……)
 何が起きたのか分からないまま、何となく車内を見回してみる。すると、例の少年が先ほどまでとは打って変わった(けわ)しい表情(ひょうじょう)でこちらに近づいて来るのが目に入った。
「……とうとう来たか。まぁ、これだけ魅力的(みりょくてき)エサ()びつかないはずがないってのは分かっていたがな……」
 少年は口の中でぶつぶつとつぶやきながらエデンの横まで移動(いどう)して来ると、おもむろにその(うで)をとった。
「え……!? あの……っ赤面汗
 戸惑(とまど)うエデンに少年はひそめた声で()げる。
「お前、今からしばらく(おれ)のそばから(はな)れるな」
「えぇ……!? な、な、何で……っ」
 言いかけ、だがその言葉を最後(さいご)まで言い終わらぬうちに、エデンはひどいめまいに(おそ)われた。
 少年は舌打(したう)ちし、エデンの腕をにぎる力を強める。
 世界が(ゆが)み、ぐるぐる回っているような感覚(かんかく)の中、エデンはどこかで聞いた(おぼ)えのある、ちりん という鈴の()を聞いた。

桜ライン
 
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Episode1−1
 
  
このページは津籠 睦月によるラブコメ・ファンタジー小説  
魔法の操獣巫女(マジカル・ビーストテイム・シャーマン)★エデン」の 
シンプル・レイアウト版です。
 
 
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