魔法巫女エデン

Episode1:Not 魔法少女 But 魔法巫女!<6>

〜マホウショウジョジャナクテ、マホウミコナノ!〜

  という音とともに一瞬(いっしゅん)にして空中に巨大な(たて)が出現し、飛んで来たガラクタを(はじ)き飛ばして消滅(しょうめつ)する。
「早く!俺が時間をかせいでいる間に変身するんだ!」
「は……はい……っ」
 エデンはその場にへたり込んだまま、懸命(けんめい)思考(しこう)をめぐらす。
(は、早く変身しないとっ、この人が(あぶ)ない……っ。へ、変身・ヘンシン・メタモルフォーゼ……魔法少女(まほうしょうじょ)っぽい、キラキラきらきらなイメージの“呪文(じゅもん)”で……)
 (おさな)(ころ)に見たアニメの変身シーンを頭の中に思い()かべながら、エデンは覚悟(かくご)を決めたように立ち上がり、その“変身呪文(へんしんじゅもん)”を口にした。
「キャ……キャラメル・キャラメラ・キャラメリゼ
 思わず決めポーズまでつけて(とな)えたものの、エデンはすぐに(はげ)しく後悔(こうかい)した。
(うぅ……っ、(われ)ながら何の三段活用(さんだんかつよう)なんだろう、これ……っ、って言うか、これで変身できなかったら()ずかし()ぎるんだけど……っ赤面汗
 羞恥(しゅうち)と不安にいたたまれなくなるような一瞬(いっしゅん)()の後、エデンは(まばゆ)い光きらきら(つつ)まれた。
 それまで身につけていた服の感触(かんしょく)(おも)みがふっと消え、身体(からだ)の周りを光でできた羽根(はね)やネコのシッポのようなフワフワしたものが飛び回った……ような気がしたが、あまりに一瞬(いっしゅん)のことだったので、エデンにははっきりと知覚(ちかく)できなかった。
 そして気がつけばエデンは花ノ咲理学園(はなのさかりがくえん)制服(せいふく)とは()ても似つかない衣装(コスチューム)を身にまとっていた。
 巫女(みこ)緋袴(ひばかま)を思わせる幅広(はばひろ)のプリーツのついた(あか)ミニスカート胸元(むなもと)に三段フリルのついたノースリーブの白い上衣。(うで)には着物の(そで)のような広がりを持つアームカバー(ウエスト)には白猫のシッポに似たもこもこ素材(そざい)(おび)。えり(もと)には蝶々結(ちょうちょむす)びの赤紐(あかひも)がついたフワフワの白いティペット(あし)には白いファーと赤い紐飾(ひもかざ)りのついたオーバーニーソックスと、どことなく草履(ぞうり)彷彿(ほうふつ)とさせるデザインの厚底(あつぞこ)サンダル
 エデンはそんな自分の姿(すがた)見下(みお)ろし、思わず赤面(せきめん)した。
「何これ、何これっ!(なん)カラーリングが紅白(こうはく)なのっ!? ハデ()ぎるでしょっ赤面!もっとピンクとかのパステル・カラーが良かったよ……っ汗
「……なるほどな。神職(しんしょく)の父親魔女(まじょ)の母親の間に生まれた(むすめ)はそうなるってことか。ただの巫女でも魔女でもない。この世界にただ一人の“魔法巫女(まほうみこ)”ってとこか……」
「え……?私のパパとママが何……?」
 聞き(のが)せない事実が耳に入り、思わず聞き返そうとしたその時、エデンの目の前に(まぶ)しく(かがや)(ぼう)状の光きらきら(あらわ)れた。
「え?え!? 今度(こんど)は何っ!?」
「お前の“(つえ)”だ。手に取ってみろ」
「つ、杖って……もしかして、魔法(まほう)の……?」
 エデンはドキドキしながら光に手を()ばした。手を()れると、ぼんやりした棒状だった光は独特(どくとく)形状(けいじょう)をした“杖”へと変化(へんか)していく。
 パールピンクの(じく)に、()の部分は短毛種(たんもうしゅ)のネコの前肢(まえあし)そのままの形でフワフワの短いファーに(おお)われ、先端(せんたん)には一対(いっつい)(つばさ)と、中に鈴の()るされた黄金(おうごん)のハート……に遠目(とおめ)からだと見えるモチーフが(あらわ)れる。
 一瞬(いっしゅん)だけ()り向いてその杖の形状を確認(かくにん)した少年は、その途端(とたん)、何とも言えないビミョウな表情(ひょうじょう)になった。
「うっわぁああぁ……カ、カワイイ……っ。コドモの(ころ)誕生日(たんじょうび)に買ってもらったマジカル・エンジェル・プリンセスローズ・クリスタル・ロッドより断然(だんぜん)ジュエリーっきらきらぽいプラスチックっぽさが全然無くて高級感(こうきゅうかん)(ただよ)ってる……!」
 ひとり興奮(こうふん)するエデンに、少年は視線(しせん)(けもの)の方へ向けたまま、ぼそりとツッコミを入れる
「いや、材質(ざいしつ)雰囲気(ふんいき)より、フォルムがそもそも微妙(びみょう)()ぎだ。何でただのハートじゃなくてハート(がた)に身をくねらせた黄金のネコなんだよ。(あき)らかに姿勢(しせい)体型(たいけい)不自然(ふしぜん)過ぎるだろう。おまけに()リアル猫脚(ねこあし)過ぎてキモチワルイ……」
 そう。エデンの(つえ)先端部分(せんたんぶぶん)はただのオープンハートではなく、猫の(からだ)とシッポでハート型を(あらわ)したものだった。しかも()の部分は裏側(うらがわ)ぷにぷにした肉球(じょう)(かざ)り)まで付いた本格的(ほんかくてき)猫脚仕様(ねこあししよう)だ。
「えへへ……っ、私の杖、何て名前にしようかなっ。ハートにキャットで……ハートフル・キャット・ロッド……とか?」
「おい、コラっ!のん気にネーミングを(かんが)えている場合(ばあい)かっ!」
 エデンが状況(じょうきょう)をすっかり(わす)れて杖に夢中(むちゅう)になっている間にも(けもの)攻撃(こうげき)仕掛(しか)けて来る。
 寸前(すんぜん)で攻撃を(はじ)き返した少年に()り返って怒鳴(どな)られ、エデンはハッと(われ)に返った。あわてて杖を(にぎ)りしめ、少年の(となり)()()る。

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Episode1−1
 
  
このページは津籠 睦月によるラブコメ・ファンタジー小説  
魔法の操獣巫女(マジカル・ビーストテイム・シャーマン)★エデン」の 
シンプル・レイアウト版です。
 
 
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