「夢より
「おぉー……。なかなかやるじゃん。スゴイスゴイ」
ここは小女神宮の中庭にある“
「でも101匹はちょっと多過ぎ。見てて気持ち悪いから消してくれない?」
「……はっきり言うなぁ、もう」
ラウラはため息とともに意識の集中を
「まさかあんた、ソレで
「……ダメかな」
「ダメでしょう。相手はあのアメイシャとアプリと、ついでにこの私なんだよ?」
「うーん……。まあ、そうだよね。でも、そういうキルシェちゃんには何か
「策?無いよ、そんなの。だって私、優勝する気ないし」
「えぇーっ!?何で!?どうして!?キルシェちゃんは夢見の娘になりたくないの!?」
「そりゃなりたいけどさ。現実問題無理でしょ。アメイシャが相手じゃレベルが
キルシェは
――夢見の娘。それは一年に一度島で行われる“
「確かにメイシャちゃんはすごいけど、勝敗を決めるのは選考会当日の夢晶体の
きらきらした目で
「まあ、確かにそうだわ。どんなに可能性が低くても最初から
「そうだよ!『どうせダメ』なんて思っちゃダメだよ。少しでも
「ありえない未来を思い描いてその夢に
盛り上がりかけた二人の気持ちに水を差すように冷たい声が
「何、あんた。ケンカ売りに来たわけ?」
立ち上がりにらみつけるキルシェにかまわず、アメイシャは
「これから私がここで練習をする。
「何それ!後から来ておいて何様のつもり?夢生みの泉はあんた一人のものじゃないんだからね!」
「そう。私一人のものではないし、君たちだけのものでもない。夢見の娘
「何が公平よ!知ってるんだからね!あんたが
「それが何か?私が言ったのはあくまでこの泉の使用時間のことだ。
キルシェが目を
「三人とも、またケンカしてるの!?」
「止めないでアプリ。アメイシャには社会生活における
「礼儀はともかく、常識ならば私より先に君の親友に教えてやった方がいいのではないか?何せシスター・アルメンドラもお
「ちょっとアメイシャ、言い過ぎよ」
アプリコットがたしなめる。だが言われた本人は
「ラウラ、何笑ってんの。あんためちゃくちゃ
「え?だって常識に
ラウラの言葉に他の三人は一瞬無言になり、
「……話にならん。だから私は君が
アメイシャはラウラから目を
「あんたって何だかよく分からないけどスゴイよね。あのアメイシャに勝っちゃうんだから」
「今の、勝ったって言えるのかなぁ?」
「うーん……。でも少なくとも負けてはいなかったよ。やっぱりあんたしかいないかな、アメイシャ相手に夢見の娘を勝ち
「えー?キルシャちゃんも目指すんでしょ?夢見の娘」
「そりゃあ私もベストは
ふいにしんみりと言われ、ラウラは思わず瞳を
「キルシェちゃん……」
「でも、さっきの
「キルシェちゃん、
小女神宮の夜は早い。六時の
ラウラは
「夢より
だが、それはほんのわずか花びらを
「選考会へ向けてのイメージトレーニングですか。どうやら
声をかけられ振り向くと、そこにはミルキーブルーの
「シスター・フレーズ!」
ラウラの顔がぱぁっと輝く。シスターはどこか
「もしかして、私を待っていたのですか?」
「うん!だって、シスター・フレーズって昼間はなかなかつかまらないし。いつもみたいに夜に一人でここにいれば会えるかなって思って」
ラウラが彼女と初めて会ったのは、小女神宮に上がって
「何を泣いているのですか?家が恋しいのですか?」
最初にそう声を
「家にも帰りたいけど……泣いてたのはそのせいじゃなくて……フィグと会えないのが、悲しいの」
「フィグ?」
「おとなりの灯台の、男の子。レグナースは男の子と会ったりしちゃダメなんだって、みんな言ってる。そんなの
「
そのシスターらしからぬ
「え?どうしてそんなこと教えてくれるの?お姉さん、シスターなのに」
「私はシスターである前に、全てのレグナースの
胸の前で両手を組み、静かに語る彼女の声には、まるで自分の経験を語ってでもいるかのような
「……あなたには、まだ
こうして始まったふたりの交流は、今もこうして、誰にも
「どうしてかな、シスター・フレーズって、私が
ラウラが笑って言うと、シスター・フレーズは
「分かっていますよ。私は小女神宮の全てのレグナースを見守るために、ここにいるのですから」
「そっか。えへへ。なんか
「……また何か、迷っていることがあるのですね?」
「うん。選考会の
「先に言っておきますが、
「うん。分かってる。いいよ。話を聞いてくれるだけで。だってシスター・フレーズって、
ラウラは銀の匙杖をぎゅっと
「あのね、さっき練習してた“めくるめく四季”って、私が今まで出会った
シスター・フレーズは何も言わず、ただ静かな目でラウラの言葉を
「
その言葉に、シスター・フレーズは軽く目を
「……あなたは、その
「え?うん。感動っていうほど
「いいえ、あなたらしいと思いますよ」
シスター・フレーズは心の内を口にすることなく、ただにっこりと
「とは言え、
「うん、ありがとう。……でもやっぱり、何か
そう言うと、ラウラは
「う~ん。そっか、何が最高の景色かは人によって
「
言われてラウラはハッとしたように匙杖を元の形に戻し、あわてて自分の
「そっか、そうだね。
そう言って階段を下りて行こうとするラウラを引き止めるように、シスター・フレーズが問いかける。
「一つ、
「え、何?」
「あなたは一体
その問いに、ラウラは何度か
「うん、そう言われてみれば、そうなのかも。私は『夢見の娘』になりたいわけじゃない。この島で最高のレグナースになりたいんだ。誰よりも強い夢見の力を持ったレグナースに。それがたまたま『夢見の娘』だったから、自然とそれを目指してるだけなんだ」
その答えを聞いてなお、シスター・フレーズは問いを
「なぜそれを目指すのか、訊いても良いですか?」
「えっと……何でだろう。うーん……たぶん、最高のレグナースじゃないと
「それはもしかして、以前言っていた、あなたの
「うん!フィグってね、すごいんだ。何でもできるし、何でも知ってるし、夢術も
フィグのことを語るラウラの
「その夢を教えてもらった時、私、すごく
「あなたの夢は、彼と
「うん。最初はそうだったよ。でもね、夢見の娘がどういうものなのか知ってからは、本気でなりたいって思うようになったよ。それに、夢を追いかけること自体が楽しくなってきたから」
「夢を追いかけるのって、すごく幸せ。だって夢に近づくためにいっぱい物を考えて、いっぱい
シスター・フレーズは言葉もなくラウラを見つめた後、
「……何年
シスター・フレーズはそこで一度言葉を切り、
「そんなあなただから、私はあなたを……」
「……え?」
その時ちょうど九つの