第十章 嵐の宮殿 |
水神の加護を受ける国にふさわしく、水辺の景色の美しさで有名な宮殿だ。
庭園には水底に人の
水際や池の中にある島には松や柳、梅に椿に
池に面した建物には水の上にまで張り出した
だが俺達はその景色を望むことすら
周りが見えぬほど
四方を壁に囲まれたその部屋の中にいたのは、全て
「どういうおつもりですか!
「
「このようなやり方で私達を死罪に追い込めたとしても、
「葦立の人間だけではありません。今はまだお出ましになっておられませんが……」
雲箇が言い終わらぬうちに、部屋の外から足音が聞こえてきた。
「……どうやらおいでになったようです」
雲箇は言葉を切り、立ち上がる。その場にいた葦立氏の人間達も皆、
息を
「皆の者、待たせたな」
そう言って薄く笑った男は、一目で高貴な身分と分かる
その姿に泊瀬と海石は目を
「王太子……
「……兄上」
二人の口から
「泊瀬様の兄君……?王太子様?では、あの方が
信じられない、とでも言いたげな声だったが無理もない。
その姿を見て
「王太子様、よくおいでになってくださいました。先に申し上げておきましたこと、
「ああ。あれだけ口うるさく言われればさすがに覚えているさ」
雲梯はうんざりしたように顔をしかめる。その二人のやり取りを聞き、
「水の
「そんな……」
花夜もどうしたら良いのか分からないというように顔を
「久しぶりだな、
「兄上……、あなたが俺達を
何を考えているのか全くつかめない異母兄に、泊瀬は
「いや、私は単なるお
表情を変えぬ……どころか、うっすら笑みさえ浮かべたままで、彼はあっさりと
「今さら何を明かそうと
にやにやした笑みを浮かべながらそう言う雲梯に、雲箇はあきらめたようにため息をつく。その時、たまりかねたように花夜が声を上げた。
「あなた
だが周囲に
「……
その
「あの者は
「ほぅ……。我が国に
言って、雲梯は意味ありげな目で雲箇を見る。
「元は一国の姫で神に
「……さあ。私にお
「花夜姫よ。そなたの言葉は正論だが、それでこの者達の心が
「あなたは泊瀬様の兄君ではないのですか?弟である泊瀬様に対して、
花夜の必死の問いに、雲梯は再び薄く笑った。だがそれは、それまでの
「私に何を期待しているのか知らんが、
「兄上……」
これまで考えもしなかった兄の苦しみを
「泊瀬王子が
それは全てを
「お前たち、これから先この場で起こることを見てはいけないよ。耳もふさいでいなさい。幼い子どもには
その雲梯の言葉を合図にしたかのように、部屋の
泊瀬と海石はぎゅっと目をつぶり、花夜は
「やめてえぇぇえーっ!」
その瞬間、庭園の池から、井戸から、あるいは深い地の底から――宮中のありとあらゆる場所から
それは
「一体、何が……?」
内側からほのかな青い光を
「ミヅハ……様……?」
泊瀬が信じられないという顔で名を呼ぶ。
その
「泊瀬!泊瀬!
「あぁ……血が出ておる。痛かったであろう?
しばらくそうして
水波女神はほっと
「そんな、まさか、
「鎮守神様は
「我らの計画が知られてしまったと言うのか?
「水神様の御目が
「一滴の水も持ち込まぬなど、できるはずがなかろう。
断罪するかのようなその
「
「……兄上……?」
「お初に
「……王太子・雲梯か。お前は
雲梯を見つめる水波女神の瞳は、それまで葦立氏たちに向けていたものとは少し様子が
「水を通してこの宮殿の中を見守っていらしたあなた様になら、お分かりになるのではありませんか?数百年の長きにわたり別宮に
その言葉に葦立氏たちは再び
「何をおっしゃるのですか王太子様!」
「我らを裏切るおつもりですか、雲梯様!」
「……裏切る?一体何を裏切ると言うのだ?私は元々お前たちの仲間となったつもりなどない。たまたま葦立の血を引いて生まれたからと言って、
うっすら笑みを浮かべたまま、雲梯は床に
「
「兄上!?何を……!?」
雲梯は
「鎮守神様は
言いながら雲梯は
「いかがですか?水を通して全てを知ることのできるあなた様であれば、お見えになるでしょう。この
その
「……あなたが国民の命を守るためにと土の下に
女神の
「あ……、あ……あぁ……っ。いかん、このままでは……心が、……魂が、
「ミヅハ様!」
泊瀬は女神の
「ミヅハ様!しっかりなさって下さい!
「
「兄上!あなたは一体、何をなさりたいんだ!このままでは荒魂となったミヅハ様に全てを壊されてしまう!この宮殿も、
泊瀬の叫びに、雲梯は笑みを深くする。それは正気の人間のものとは思えぬ狂気じみた笑みだった。
「……分かっているではないか。私はこの国を壊したいのだ。この国の
その場にいた全員が言葉を失う中、女神のうめき声だけが
「あぁ……何ということだ……。
女神は
「あぁ……こんなにも情の無い者ばかりでは、もはや、いかに望みをかけたところで
その声はまるで悲鳴のように
直後、床板を
「泊瀬様!」
顔色を変えて
水はなおも
それはやがてただの
「あれは……
花夜のつぶやきに、俺は首を
「いや。あれは