第九章 土の下の女神 |
「ここを出た後、
俺の問いに、
「分からない。俺は
やっと答えた泊瀬の口は重く、その顔には不安の色が暗く
「
「あぁ、そうだな……」
頷きながらも、泊瀬の顔に笑みが戻ることはなかった。
その時、それまで無言で歩いていた
「どうしたんだ、海石姫」
泊瀬の問いに、海石はうつむいたまま、ひどく思いつめた声で答えを返した。
「このままここを出て、我々が無事に逃げられるとは思えません。おそらくは
淡々と語る海石に、花夜は思わず声を上げた。
「海石姫、あきらめてはいけません……」
だがそこで花夜は口をつぐんだ。見つめる先、
「全ての罪は私が
「何を言い出すんだ、海石姫!そんなこと、できるわけがないだろう!」
「いいえ、今度ばかりは聞き入れていただきます。あなた様は我ら
海石は胸元に手を当て、静かな決意を秘めた
「私も、
「
「……分かっておりますわ。あの
海石の表情は揺らがない。だが、その瞳からは胸の底に秘めていた悲しみがあふれたかのように、一滴の涙がこぼれ落ちた。
「夏磯姫は私にとってかけがえのない友人でした。誰よりも清らかで、優しくて……あの
「魂依姫に……
花夜がはっとしたようにその言葉を繰り返す。同時に俺も思い出していた。
――何でも去年の春に前の
「夏磯姫というのは、この国で
「……けれど、その前にあの方はお亡くなりになりました。殺されたのですわ。自らの氏族の姫を魂依姫に
「え……」
「葦立氏が直接手を下したという
「いいえ、葦立氏の
「葦立の……巫女姫……」
「ええ。私が殺したいほど憎んでいるのはその葦立の巫女姫なのです。あの姫は初めから巫女としてふさわしい女ではありませんでしたわ。大宮に上がった当初から、葦立氏の権力を後ろ盾に
「四年前……遠方に左遷……?その姫の名は、何とおっしゃるのですか?」
「……
花夜が小さく息を
ふいに辺りに奇妙な“音”が響き渡った。まるで水の中で
『
「
泊瀬が
それは、行く手を
「
花夜が
「ああ。しかも
その時、
「その声……
「よせ!うかつに近づくな!」
泊瀬がとっさにその手を
「……
だが水霊は海石の言葉や怒りの
『罪人たちよ、
「……俺たちがここにいることは
泊瀬がうなるように
「こうなれば今はこの
俺の言葉に花夜も
「そうですね。そして
俺は再び
『何を
それはわずかの迷いも感じさせない、妙に
『我は
「これは……“
それは風でもなければ精霊でもない。だが俺たちの身は明らかに、古墳の外へ外へと押し流されていた。何か
「何だ、これは……っ!」
何とかその場に留まろうと足を
「これは、
必死に
「きゃあっ!」
地の上に乱暴に投げ出され、花夜が悲鳴を上げる。古墳の周りには
「痛……っ、皆、
うめきながら起き上がった泊瀬が、次の
その視線の先には、
「やはり
上衣の上には下の衣をうっすらと
「
思わず
「あなた様は幼い
「見張りだと!?そんな馬鹿な……。俺たちは
「それは何の
「それでは俺たちの今までの行動は全て
泊瀬の顔から血の
「まさか本当に神域を
変わらず
おそらくこれは最初から計画されていたことだ。
「おとなしく
言葉だけは
「……させませんわ。私からこの上、泊瀬様まで
「
直後、海石を中心に
兵士たちは
「これは……海石姫の霊力!?でも、海石姫は霊力を
水を巻き上げながら吹きつける風から身を
「
嵐をまとったまま、海石は短剣を
「
雲箇は顔色一つ変えず兵士を
「
その手に持つ領巾がふわりと風になびいたかと思うと、次の瞬間
海石は立っていられず、悲鳴とともに地に
「自分で
「海石姫!」
泥の中に
「その姿……
言って雲箇はその顔を動かし、俺の姿に目を止めた。
「一度ならず二度までも
「……
「私の質問にはお答えいただけないのですね。神と言えど、
雲箇はわずかの間、何かを
「ならば、その罪は我が国の鎮守神・
「なっ……」
俺はしばし
「俺に、水神の下に服従しろと言うのか。そしてお前たちに霊力を貸せと?そのようなこと、聞けるものか!」
「いいえ、聞いていただきます」
言いながら雲箇は手の動きだけで兵士たちに指示を出す。兵士たちは雲箇の
「ヤト様……っ」
花夜が
「花夜!」
ほんのわずかの間でも花夜のそばから
「お分かりになりましたか?我々はあなた様を害することはできずとも、あなた様の巫女を害することはできるのですよ。もはやあなた様に
雲箇のどこまでも冷たい声が