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第1話:夢見の島の眠れる女神
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第6章 夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)"選考会(2)

 夢見の娘候補者の四人が前に集まると、アルメンドラの横からシスターが一人、上部に穴のあいた白い木箱を掲げ持って進み出てきた。
「これより夢術演技(レマギア・アンテルプレタシオン)の順番を決めます。誕生日の早い者からくじを引いていきなさい」
「うわー……来た来た。夢見の女神(レグナリア・レヴァリム)様、どうかお願いします。一番最初と一番最後にだけはしないで下さい」
 四人の中で一番早く誕生日を迎えるキルシェが、口の中でぶつぶつと女神への祈りを唱えながら木箱に手を入れた。そして中から番号の書かれた札を引き出し……そこに書かれた数字
を確認した途端にうなだれた。
「終わった……。よりにもよって一番最初なんて……。一番最初は点が辛くなるものって相場が決まってるのよね」
「ドンマイ、キルシェちゃん。考えようによってはいい順番だよ。あのメイシャちゃんの前に演技を見てもらえるんだから」
 二人がこそこそ会話を交わしている間にアメイシャが3番の札を引いた。残る順番は2番目か一番最後。四人の中で一番誕生日の遅いラウラは、自分では札を選ぶことができない。そして、アプリコットが箱から札を取り出した。その手に掲げられた数字に、ラウラとキルシェは息を呑む。
「アプリが2番ってことは……。ドンマイ、ラウラ。よりにもよって一番最後、しかもアメイシャの直後に演技だなんて……。私よりよっぽどツイてないよね」
 キルシェが心からの同情を込めて慰める。だがラウラはしばらく何かを考えるように遠くを見つめた後、首を横に振った。
「ううん、むしろ燃えるシチュエーションかも。皆、メイシャちゃんの優勝ばかりを予想して、誰も私に注目なんてしてない。だからこそ、そこですごい夢術を見せられたら皆をあっと言わせられると思うんだ。それにそういう逆転優勝みたいなの、すっごくドラマチックでおもしろいって思わない?」

 開会のセレモニーからほんの少しの準備時間をはさみ、すぐに一人目の演技(パフォーマンス)が始まる。
 白線で区切られた四畳半ほどの広さの演技スペースには地面いっぱいに夢雪(レネジュム)がまかれ、その外には夢雪がすぐに溶けてしまわぬよう、冷風を送り込む夢鉱器械(レムストーン・マシヌリィ)が4台設置されていた。
 キルシェは緊張した面持ちで銀の匙杖(シルヴァースプーンワンド)を構える。(ワンド)の柄についたさくらんぼ型の珠飾りが、揺れてきらりと光を弾いた。
「夢より紡ぎ出されよ!スウィフト著『ガリヴァー旅行記第三篇より、空飛ぶ島“ラピュータ”!」
 前庭中に響くように大きな声で唱えると、キルシェは杖の先端で演技スペースいっぱいに円を描いていった。一周し終えて円を閉じると、キルシェはそのまま後ずさり、演技スペースを離れる。直後、夢雪の積もった地面が白銀に輝き、そこから真円形の何かが轟音とともにせり上がってきた。
 それは、側面を幾重もの回廊に囲まれた島だった。回廊と回廊とは階段でつながれ、頂上には宮殿らしき建物も見える。船医ガリヴァーが遭難の末に辿り着いた人工の浮島・ラピュータだ。
 島は完全に地表に現れると、今度は空へ向けて上昇していく。それと同時にその姿はされにどんどん巨大化していき、ついには小女神宮(レグナスコラ)全体を覆うほどになった。観客たちは首を真上へ曲げ、空を指差しながら楽しげにざわめく。
「ほう、なんとダイナミックな……。それほど注目しておりませんでしたが、この小女神もなかなかやりますな」
 審査官の一人が空を仰いだまま感嘆の声を漏らした。
「うむ。しかし観客への魅せ方という点ではやや疑問を感じますな。こうして上空に浮かんでいますと、我々から見えるのはラピュータの底部のみ。ガリヴァー旅行記のラピュータでは島の底部はただの平らな硬石(アダマント)ですから、見ていて何の面白味もない。そもそも真上にあるものをこうして見上げるというのは少し酷な見せ方ですな。首も腰も痛くて敵いません」
 この言葉にキルシェの眉がぴくりと上がる。
「……聞こえてるってば。勝手なこと言ってくれちゃって。あれだけのイメージを紡ぎ出すのにどれだけこっちが苦労してると思ってんのよ。ま、いいわ。派手にすればいいんでしょ、派手にすればっ」
 キルシェは審査官たちに聞こえないよう小さく毒づいて、再度杖を振り上げた。
「まだまだ終わりじゃないよ!夢よ、我が意のままに動け!ラピュータ、アクロバット飛行!」
 キルシェが杖を振り回すと、上空に浮かぶ島は元の大きさに縮まり、まるで見えない糸で操られているかのように杖の動きに合わせて動き出した。
 さながら航空ショーのアクロバット飛行のようにくるりと上下に一回転したかと思えば、一気にスピードを上げ、観客たちや審査官の前を縦横無尽に飛び回る。観客たちは興奮し、口々に喝采した。だが、杖を振るキルシェの顔にはだんだんと汗がにじみ、隠しきれぬ疲労の色が浮かんでくる。
「ラピュータ、最後に皆の前を一周して」
 キルシェはふらつきながらも、かろうじてそれだけを告げる。島はその全貌を皆の目に見せつけるようにゆっくりと前庭を一周すると、光の粒となり一瞬で消え去った。


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このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話夢見の島の眠れる女神の本文ページです。
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