第1話:夢見の島の眠れる女神
<TOP|もくじ>
(※本文中の色の違う文字をタップすると別窓に解説が表示されます。)
- 第6章
夢見の娘 "選考会(1) -
「今年は四人……か」
円卓に座した老人の一人が厳かに呟く。小女神宮 の一室。居並ぶ六人の審査官は皆、難しい顔で視線を交わし合う。
「左様。四人じゃ。しかも四人全員が14才。“朱鷺色の未年”生まれの小女神 は全員残っていることになる」
「有り得ないことではないとは言え、同じ年の生まれの小女神が一人も欠けずにこうしてそろうとは珍しい。150年前の例の年 も、結局最後は一人に絞られたものの、直前まで同じ年の生まれの小女神が全員残っていたとありますが……。やはり、どこか重なるものがありますね」
「皆も薄々気づいていたであろう。島の夢雪 の総量は年々減少している。報告によれば“千年雪の丘”でさえ積雪量が減ってきているそうだ。150年前の記録と同じ……。これまでの例から考えれば、そろそろ“あれ”が来てもおかしくない頃だ」
「しかし、早過ぎやせんか?間隔があまりにも短過ぎる。前回と前々回との間には300年近くの年月があったというのに、今回はたったの150年ですぞ?」
「それだけ“汚染”のスピードが速まっているということでしょう。“あちら側”での人口の増加、文明の進化はともに150年前とは比べものにならぬ速度で進んでいるのですから」
しばし重い沈黙が降りる。誰もがその先を口にしたくない、この場から動きたくないとでも言うように硬い表情で唇を引き結んでいた。だが、そんな彼らに行動を促すかのように、部屋の外から鐘の音が響く。
「……時間、ですか」
「ああ、行かねばならん。我々の手で選ばねばならぬのだ。この島の……いや、世界の命運を握る者、真の 夢見の娘 を……」
「女神ならざる我々には荷の重過ぎる選択ではありませんか?『真の夢見の娘は女神 の御手により選ばれる』と、伝承にはあります。選考会を延期して様子を見てみては……」
「伝承が真実とは限らん。確かに前回は選考会を待たずして他の全ての小女神 がいなくなり 、ただ一人の小女神 だけが残されたと記録にあるが、それが女神の作為によるものなのかどうかは誰にも分からぬのだからな。ぐずぐずと選択を延期していては先に事が起きてしまうかも知れん。そうなってからあわてて選ぶより、時間のあるうちにじっくり見極めて選んだ方が良かろう。人選を誤れば、また次回までの間隔が短くなってしまうのだからな」
「いずれにせよ、我々はただ、四人の中で最も夢見の力の強い者を選べばいい。それだけです。女神もそれを望まれているはずですから」
六人は再び視線を交わし合い、大きく頷くと椅子から立ち上がった。
「では、参りましょうか。夢見の娘 候補者たちが待っています」
そうして彼らは夢見の娘選考会の行われる小女神宮 の前庭へ向け歩き出した。この先、島に訪れる運命をこの時点で理解していたのは、まだ彼らと眠れる夢見の女神 だけだった。前庭には既に数多くの見物人が集まっていた。シスター長アルメンドラは六人の審査官が席に着いたのを確認し、厳かに告げる。
「では、これより夢見の娘選考会を始めます」
周囲から歓声が巻き起こった。夢見の娘 選考会は一年のうちで唯一、一般の島民が小女神宮 へ上がることが許される日なのだ。会場は老若男女がひしめき合い、まるで祭のように盛り上がっている。
「まずは夢見 島の守護神であらせられる夢見の女神 “フレア”に感謝の祈りを捧げましょう」
並んでいたシスターたちが一歩前へ進み、祈りの歌を歌い始める。その歌声が響く中、ラウラはひそりと隣のキルシェに囁きかけた。
「ね、キルシェちゃん。フレアって、夢見の女神 様のお名前だよね?」
「そうよ。あんた、まさか知らなかったわけじゃないでしょう?」
「ううん、知ってたけど……。でも何か変だなって思って。女神様の本当のお名前って、こういう改まった場でしか呼ばれないでしょう?普段は“夢見の女神”っていう呼び名ばっかり使われて。何でなんだろうなって思って」
「そりゃ、神聖なお名前だからみだりに使わないようにしてるんでしょ。……って言うか余裕あるね、あんた。これから選考会が始まるっていうのに」
こそこそおしゃべりしているうちに、いつの間にか歌は止み、アルメンドラが険しい目つきで二人を見ていた。
「ラウラ・フラウラ!キルシェ・キルク!」
厳しい声で名を呼ばれ、二人はびくりとして姿勢を正す。だがアルメンドラは咳払いを一つしただけで説教めいたことは口にせず、続けて他の二人の名を呼んだ。
「アメイシャ・アメシス、アプリコット・アプフェル。全員、前へ出なさい」
このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話の本文ページです。
個人の趣味による創作物のため、全章無料でお読みいただけますが、
著作権は放棄していませんので、無断転載等はおやめください。