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第1話:夢見の島の眠れる女神
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第3章:夢鉱石(レム・ストーン)の谷(1)

 空は青く澄んでいた。時告鳥が鐘の音に似た声で十回鳴いて飛び去っていく。頭上を横切るその銀色の鳥を、フィグは仏頂面で見送った。
「よう、フィグ!久しぶりだな」
「早いな。またお前が一番乗りか」
「どうしたんだよ。そんな不機嫌そうな顔して。嫌な夢でも見たのか?」
 背後からかけられた三つの声にフィグは振り返り、顔をしかめる。
「……なんだ、ソレは」
 フィグの視線の先には、三人の少年の乗る珍妙極まりない乗り物があった。
「これか!スゲーだろ!馬の代わりに魔法のホウキを使った“空飛ぶ馬車”……あ、違うか。“空飛ぶホウキ車”さ!」
「……俺の目には二本のホウキの後ろにリヤカーがくくりつけられてるだけの代物にしか見えないんだが。お前が紡ぎ出したのか?」
「そうさ。俺は既存の夢物語からしか夢晶体を紡ぎ出さないお前と違って自分のオリジナルで勝負する性質だからな!」
「いや、僕たちは止めようとしたんだけどリモンが聞かなくてさ……。ほら、リモンって夢術師(レマーギ)目指してるから」
「性能はともかく見た目がなぁ……。郷を出て来る時にも何人かに笑われたし」
 小声で言い訳じみたことを言い出すビルネとカリュオンを同情の目で見やり、フィグはわざとらしく大きなため息をついてみせた。
「まあ仕方ないだろう。オリジナルの夢晶体ってのは全部を自分で考えなければいけない分、既存の夢物語を形にするより高度なセンスと想像力が必要とされるからな」
「なんだ、その言い方。まるで俺にセンスと想像力が無いみたいじゃないか」
「まあまあ。こんな所でダラダラしてないでとっとと鉱石谷に入ろうぜ」
 三人が降りた途端、リモンの紡ぎ出した“空飛ぶホウキ車”は細かい光の粒子をまき散らしながら溶けるように消え去り、後には一本の雪かき用のシャベルがカランと音を立てて地に落ちた。
 鉱石谷は“世界樹の切株”を取り囲むドーナツ状の深い谷の一部だ。入口付近には切り出された夢鉱石(レム・ストーン)を加工する夢鉱技師(レマイスタ)たちの工房が建ち並び、その奥には一面に白い石の森が広がっている。大理石のような石でできた木々の群れは、ところどころで谷の岩壁と一体化しながら枝を伸ばし、その先に果実のように夢鉱石を実らせていた。


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このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話夢見の島の眠れる女神の本文ページです。
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