ファンタジー小説サイト|言ノ葉ノ森

ファンタジー小説|夢の降る島

第1話:夢見の島の眠れる女神
TOPもくじ
(※本文中の色の違う文字をタップすると別窓に解説が表示されます。)

第3章:夢鉱石(レム・ストーン)の谷(2)

 四人は森に入るとすぐに別行動をとりだした。鉱石谷に実る夢鉱石は、実る木によりその色も形も異なっている。四人はそれぞれ目当ての夢鉱石を探し出し、枝に登ってもぎ取ったり、下からパチンコで撃ち落したり、あるいは見つけた石を虫眼鏡で観察し、その質を見極めてから慎重に採取したりと、思い思いの方法で“収穫”していった。
 約一時間後、ポケットいっぱいに詰め込んだ夢鉱石を手に四人が向かったのは、夢鉱技師ハーメドの工房だった。
「おぅ。今日も来たか。今度は何が欲しいんだ?」
 白髪まじりの夢鉱技師は夢鉱石鑑定用のルーペを取り出しながら、にやりと笑った。四人は工房の棚に並ぶハーメドの作品の中から目当ての品を手に取り、きらきらした目でハーメドの元へ持っていく。
千里眼鏡(セカンドサイト・テレスコープ)か。そいつは高いぞ。それなりの夢鉱石とじゃなけりゃ交換はできねぇな」
 フィグが手にしたそれは目盛りに碧の夢鉱石がついた双眼鏡だった。もちろん、ただの双眼鏡ではない。それは夢鉱石に含まれる“夢粒子(レフロゥム)”の力を借りて、たとえどんなに遠く離れた場所であろうと、そして間にどんな障害物があろうと、その人の望むものを映してくれる双眼鏡なのだ。夢鉱技師とは夢鉱石を利用してこういった道具を生み出す職人のことを言う。
「あーっ!ずるいぞフィグ!それは俺も狙ってたんだ!」
 カリュオンが横から割り込みフィグの手にした千里眼鏡を奪い取る。
「だったらお前、今手にしてる鉱石ラヂヲはどうするんだよ?二つともは無理だろう」
「じゃあラヂヲはやめてこれだけにする!だったらいいだろ!」
「こらこら。人の店で勝手にケンカを始めるんじゃない。それじゃあ公平に、採ってきた夢鉱石の価値がより高い方にそいつを譲ろう」
 ハーメドは二人の採ってきた夢鉱石を机の上に並べさせ、鑑定を始めた。
「ふむ……。アベンチュリンクォーツが三つにムーンストーンが二つ、それとアマゾナイトロードナイトアルマンディンに、ペリドットが一つずつか。随分採ってきたな。で、フィグの方はと……」
 フィグの採ってきた夢鉱石を横目で見て、カリュオンは勝利を確信したような笑みを浮かべた。
「なんだ、フィグ。全然採れてないじゃないか。カイヤナイトが一つにブルーレースアゲートが二つ、それと水晶一つだけか。悪いがこの千里眼鏡は俺のものだな」
「いや、今回はフィグの勝ちだ」
 鑑定を終えたハーメドがカリュオンの手の中の千里眼鏡をひょいと取ってフィグに渡す。
「何でだよ!?数も石の大きさも俺の方が上じゃないか!」
「まあ、単純に石の数と大きさだけだったらお前さんの勝ちで良かったんだがな。より価値の高い方と言っただろう?夢鉱石の価値は大きさや種類だけで決まるものではない。色・形・傷の有無、そして何より含まれる夢粒子の量と質が重要なのだ。それにな、フィグの採ってきた水晶をよく見てみろ。きれいなハート型をしているだろう?こいつは日本式双晶だ。鉱石谷でもそうそうは採れん希少価値の高い逸品だ。さすがは夢鉱技師志望なだけあって、なかなかの目利きだな」
 その言葉に、少年たちは一様に驚いた表情でフィグを振り返る。
「えっ?フィグって灯台守を継ぐんじゃないのかよ?」
「いやいや、俺はてっきり夢術師(レマーギ)になりたいんだと思ってたぞ。だって夢紡ぐの上手いじゃないか」
「そうだよ。リモンよりよっぽどセンスも想像力もあるのに、もったいない」
「……夢術師なんて、ほんの一握りの人間しかなれないじゃないか。夢を紡ぐ力なんて、ほとんどの人間は二十歳になる前に失ってしまうんだぞ。そんな、なれるかどうかも分からないもの目指すより、俺は手に職をつけたいんだよ」
 フィグの言葉に三人の友人たちは呆れたように顔を見合わせた。
「相変わらず、現実的って言うか、夢がないって言うか……」
「レヴァリム島の住人とは思えない台詞だよな」
 ムッとしたように黙り込むフィグにハーメドも苦笑する。
「そうだなぁ。やりたいことや創りたいものがあって夢鉱技師になりたいと言ってくれるんなら嬉しいんだがなぁ。お前さんは安定志向に走るにはまだ早過ぎるんじゃないか?若いうちには夢を見ておくものだぞ」
「夢……」
 呟くように繰り返すフィグの脳裏に幼い頃の自分の声が蘇る。
『いつか俺はこの島の外に出るんだ。ギリシャ神話やケルトの妖精や神仙の生まれた国を自分の足で巡ってみたい。ここよりもっと広い“果てのない”世界を旅するんだ!』
「夢なんて、実現可能なものじゃなきゃ意味ないさ」
 吐き出すように呟かれたその言葉は、どこか自分自身に言い聞かせているような響きを含んでいた。


もどるもくじすすむ

このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話夢見の島の眠れる女神の本文ページです。
個人の趣味による創作物のため、全章無料でお読みいただけますが、
著作権は放棄していませんので、無断転載等はおやめください。

 
inserted by FC2 system