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魔法巫女エデン
 
 
 
 
 
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Episode4:From today on,あなたは My Friend

〜キョウ カラ、アナタ ハ ワタシ ノ ズットモ〜

 入学したての学校は、まだその景色にも匂いにも慣れなくて、よその学校に足を踏み入れているようなドキドキが消えない。
 六年間も通い慣れた小学校とは何もかもが違い過ぎていて、今はまだ、ワクワクよりも不安の方が大きい。まして、あんな話を聞いてしまったのならなおさらだ。
(まさか、この学園が災厄の獣の溜まり場だなんて……。ママ、知ってて私にココを勧めてきたのかな?)
 今も、知らないうちに災厄の獣に目をつけられているかも知れない――そんなことを考えて、エデンはビクビクしながら校舎へ続く道を歩いていた。
「そんな風にずっと気を張ってたんじゃ、ムダに疲れるだけだ」
「ぅひゃあ……っ!?」
 ふいに声をかけられ、驚いて振り向くと、そこにはここ数日でだいぶ見慣れた黒髪の美少年の姿があった。
「猫神……先輩……?来てたんですか?バスで会わなかったから、今日はお休みかと思ってました」
「……例の奴が校内をウロついていないか、皆が登校してくる前にチェックしていたからな。残念ながらシッポはつかめなかったが」
 当然のことのように言われ、今の今まで『校内をパトロールする』などという発想が全く無かったエデンはあわてる。
「す、すみませんっ!私、何も考えてなくて……。そういうの、必要なんですよね……?」
 だが猫神は呆れたようにため息をつく。
「お前のような初心者がウロついたところで意味は無い。お前、まだ災厄の獣の気配もよく分かっていないだろう?」
「え?あ……そうかも知れない……です」
 昨日ショッピングモールでクラスメイトに憑いた災厄の獣の気配にこれっぽっちも気づけなかったエデンは声を小さくする。
「……まぁ、経験を積めばイヤでも分かるようになるから気にするな。お前は念のため、例の女子生徒をマークしておくことだ。一旦気配が無くなったとは言え、再び狙われる可能性もあるからな」
 言いたいことだけ言うと、猫神はエデンの返事も待たずに行ってしまった。
「あ……」
(また、訊けなかった。猫神先輩が何者なのか……)
 なぜかエデンのことをよく分かっていて、落ち込みかけると、すぐにさりげなくフォローしてくれる。ずっと前から知っている気がするのに、思い出せない。彼の正体が、気になって気になって仕方がなかった。
(災厄の獣と戦っていったら、そのうち教えてくれるのかな。私、たぶんこれからもバトルし続けなきゃいけないんだろうし……)
 幼い頃は変身して敵を倒すヒロインに憧れていたと言うのに、いざ本当になってみると不安だらけだ。
 エデンはそんな不安な気持ちを吐き出すように大きくため息をつくと、昇降口へと向かっていった。

 花ノ咲理学園は、まだ創立10年ほどの学校だ。中高一貫の私立校で、丘の上に建つ校舎はデザインも建物自体もエデンがこれまで通ってきた公立の小学校よりはるかに新しい。
 廊下も学校にはよくあるビニルシートに覆われた床ではなく、ツヤツヤと明るく光る木の床だ。廊下と教室を隔てる壁は透明な素材でできた部分が多く、開放感のある造りになっていた。
 エデンは、まだ顔と名前を一致されるのがやっとのクラスメイトたちに「おはよう」のあいさつをしながら教室に入り、真っ直ぐにひとつの机へと向かう。
「おはよう、高梨さん」
 ほんの少し緊張しながら声をかけると、それまで手元の文庫本に視線を落としていた彼女がふっと顔を上げてエデンを見た。
「おはよう鈴木さん。昨日はありがとう」
「え……!?」
 一瞬、昨日災厄の獣から助けたことを言っているのかと思い、エデンはあせる。
「貧血で倒れた時、鈴木さんの連れの人が助けてくれたって言ってた」
「あ、そのこと……」
 エデンはホッと胸を撫でおろす。
(そうだよね。ピ……高梨さん、ずっと気絶してたもん。結界の中で起きたことを知ってるはずがないよね)
「もう体調は大丈夫なの?」
「大丈夫。一応病院にも行ったけど、何ともないって」
「そうなんだ。良かった」
 それきり、会話が途切れてしまう。
 こちらの質問には答えてくれるが、向こうからは話を振ってくれない。エデンは何とか会話を続けようとあせるが、何の話題を出せば良いのかサッパリ分からなかった。
(あいかわらず無口だなー……。どうやって仲良くなったらいいんだろう。例の災厄の獣のこともあるし、なるべく高梨さんのそばにいなきゃなのに……)
 ビミョウな沈黙を引きつった笑顔で誤魔化していると、ふいに彼女がふっと時計を指差した。
「そろそろ時間。先生来るかも」
「えっ?もうそんな時間?あっ、じゃあ、また後で……」
 何が『また後で』なのかもよく分からないまま、そんな言葉で会話を切り上げ、エデンはあわてて自分の席へと戻る。何だかどっと疲れた気がした。
(どうしよう……。そもそも私、まだちゃんと“友達”作れてない……。このまま高梨さんとも仲良くなれなかったら、私の中学生活、どうなっちゃうんだろう……)

 エデンはその後、休み時間のたびに彼女の元へ行き、仲良くなろうと話しかけた。
 だが、相変わらず彼女との会話は長く続かない。仲良くなれているのかどうか――彼女がエデンのことをどう思っているのかさえ分からないまま、気づけば昼休みになっていた。
(ど、どうしよう……お弁当、どこで食べよう……)
 花ノ咲理学園には給食がない。昼食は家から持ってくるか購買や学食で買うことになっている。
 エデンも母の契約の獣たちが手作りした弁当を持参していた。だが、問題はどこで誰とそれを食べるか、である。
 エデンが学校を一日休んでいた間にもクラスの女子たちのグループ化は進んでいたらしく、昼休みになるとすぐに教室のあちこちでグループ同士、机をくっつけ合う動きが始まった。すっかり取り残されたエデンはアワアワしながら彼女を探す。
「た……高梨さん……っ」
 うろたえるエデンの目に、彼女が別のクラスメイトに話しかけられている姿が映り、エデンは心臓をきゅっと鷲づかみにされたような気分を味わった。
(え……っ、高梨さん、一緒に食べる相手がいるの?どうしよう……っ、私、ぼっちになっちゃう……っ!)
 だが、そのクラスメイトはくるりと振り返り、エデンにも声をかけてきた。
「鈴木さん。良かったら鈴木さんも一緒に食べない?」
「……えっ?」
 思いがけない申し出にきょとんとしたまま固まるエデンに、そのクラスメイトは微笑みかけた。
「私のこと、覚えてくれてる?クラス委員長の久留宮だけど」
 まだ入学して日の浅いエデンでも、その人物のことはさすがに覚えていた。
 入学式で新入生代表のあいさつを行い、クラスでは当たり前のように委員長に選ばれていた、見るからに頭の良さそうな眼鏡美人だ。
「あ、うん。久留宮……裕佳子さん」
 記憶から引っ張り出したフルネームで呼ぶと、少女は一瞬だけ苦々しげに顔をしかめた……ような気がしたが、あまりに一瞬のことだったので、エデンは『気のせいか』と思った。
「皆からは“くるみ”って呼ばれてるんだ。良かったら鈴木さんもそう呼んで」
 会話を初めて一分も経たないうちに許されたニックネーム呼びに、エデンは軽く感動する。彼女との関係に一向に進展が見られなかっただけに、そのフレンドリーさは心に染みた。
「久留宮だから“くるみ”なんだね。よろしく、くるみちゃん。私のことも……」
 苗字ではなく、もっと親しみを込めた呼び方をしてもらおう……と思い、だがエデンはすぐに言葉を途切れさせた。
(どうしよう……下の名前では呼ばれたくないんだけど……)
 エデンは自分の名前にコンプレックスを持っている。キラキラネームが珍しくなくなった今の世代の中にあっても、エデンという名前は注目を浴びる。友達から下の名前で呼ばれるたびに周りの人々が振り返ってこちらを見てくるという状況は、エデンにとってひどく不本意なものだった。
 言葉を途中で止めたまま動かないエデンを、くるみが不審そうに見つめてくる。一瞬ビミョウな空気が流れかけたが、直後、そんな空気を吹き払う優しい声が響いた。
「ユカちゃん、ハイ、お弁当」
 聴いただけで心が和みそうな、ほんわりと柔らかい声だった。だが、くるみは途端に目つきを険しくする。
「“くるみ”だって言ってるでしょ、まゆ」
「あっ……そっか。そうだったわね、くるみちゃん」
 あわてて言い直し、その少女は困ったように微笑んだ。
「鈴木さんに高梨さん、はじめまして。白真雪です。ユカちゃ……くるみちゃんとは家がお隣同士の幼馴染なの。ユ……くるみちゃんともども、仲良くしてもらえたらうれしいわ」
 真雪はまるで降り積もったばかりのほわほわした雪のような、ふんわりした美少女だった。髪もややくせっ毛で、ふわふわと柔らかそうだ。
(……でも、何だろう。しゃべり方が何となく、ヨソの家の上品なお母さんみたい……)
 声は年相応に高く可愛らしいのに、話す言葉や態度が、まるで“くるみの保護者”のようだ。
「こんな所で立ち話をしてないで、さっさと机をくっつけちゃいましょ。お弁当を食べる時間がなくなっちゃうわ」
 真雪に促され、エデンたちは机を寄せ、昼食の準備を始める。
「うわぁ……鈴木さんのお弁当、可愛いわね。そのワンちゃんはチーズでできているのかしら?」
 エデンが弁当箱のフタを開けると、スライスチーズで作られたゴールデン・レトリーバーと目が合った。横にはハート型に型抜きされたハムも添えられていて、まるでその犬がエデンに向かって“好き好きアピール”をしているように見える。エデンは思わず頬を染めて硬直した。
(……絶対レトのしわざだよね、コレ。……まったく、何やってるんだか……)
「……私のも、たまにはああいうカワイイのがいい」
 エデンの弁当をじっと見つめボソッとつぶやいたくるみの前には、肉だんごや卵焼きや野菜が彩り良くつめ込まれた弁当箱がある。よく見るとそれは隣に並んだ真雪の弁当の中身と全く一緒だった。
「作ってもらっておいて文句を言わないの。これだってユカちゃんの健康を考えてバランス良く作ってあるんですからねっ」
 その台詞にエデンは思わず「えっ?」と声を上げていた。
「もしかしてそのお弁当、白さんが作ったの?くるみちゃんの分も?」
「ええ。ユカちゃ……くるみちゃんのお母様はお忙しい方だし、自分の分を作るついでだもの。ユカ……くるみちゃんに任せておくと、変に凝り過ぎて何時間もかけた大作になっちゃうし」
「仲がいいんだね……」
「ええ。だってユカちゃ……くるみちゃんが赤ちゃんの時から見てきたんだもの」
 その台詞は幼馴染というより親戚の小母さんの発言のように聞こえたが、真雪がくるみのことを、とにかく大切に想っているということは伝わってきた。対するくるみの方は何となくムスッとした顔をしている。
「そうやって子ども扱いするのやめてくれる?まゆと一緒にいると私のイメージがどんどん崩壊していくじゃない」
 その態度は母親に反発する思春期の娘のように見えた。だが本気で怒っているわけではないらしく、その声にはどことなく甘えのようなものがにじんでいる。『真雪が相手なら多少キツいことを言っても許されるだろう』とでもいうような……。
(何か入り込めないフンイキ。この二人と友達になっても、私はオマケみたいな感じになっちゃうんだろうな……)
 くるみも真雪も食事中エデンに何かと話しかけてくれたが、まだ会って間もない同士ということもあり、どこか互いに遠慮があってぎこちない。くるみと真雪のまるで姉妹のような遠慮の無い会話とはまるで違っていた。
(さみしいけど、仕方ないよね。つき合ってきた時間の長さが全然違うもん)
 そんなことを思いながら、エデンはちらりと隣を見る。
(ピ……高梨さん、くるみちゃん達が相手でも変わらないなぁ……)
 くるみはもちろん、おしゃべり上手そうな真雪が相手でも彼女の会話は続かなかった。話しかけられた時以外はただ黙々と弁当を口に運び続ける彼女の心の内が、エデンには全く読めない。
(高梨さんって、そもそも友達作る気あるのかなぁ?元からの知り合いがいない学校なら、フツーは『早く友達作らなきゃ』って、あせるものなんじゃないのかなぁ?)
 グループには入れてもらえたが、くるみと真雪の仲には割り込めそうもない。だったらせめて残った二人で仲良くしたいと思うのだが……どうすれば彼女と“仲良く”なれるのか、エデンには全く見当がつかなかった。

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初回アップロード日:2019年10月27日 
 
 
 
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