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ファンタジー小説|夢の降る島

第1話:夢見の島の眠れる女神
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第1章:夢の降る島(2)

 森を抜けると、そこは一面に苺の実を敷きつめたかのような赤い野原だった。ロウソクに点る炎のような形で揺れるそれは、花穂。苺ロウソクの野(ストロベリーキャンドルフィールドと呼ばれるその野原には、既に一人先客がいた。極彩色の刺繍にふちどられた純白のローブを身にまとい、ふわふわした長い髪を苺の形の髪留めでとめたその人物は、フィグの姿を見ると不敵に微笑んだ。
「フィグってばおっそーい!都から来た私の方が早く着いてるってどういうことよ!?」
 フィグはムッとして言い返す。
「俺はちゃんと最短ルートを通ってきた。お前が早過ぎなんだ。どうせまた俺を驚かすために無茶な方法で先回りして来たんだろう?ローブの裾が汚れてるぞ、ラウラ」
「えっ!?嘘っ!どこどこ!?まずいよ。またシスターに怒られちゃうっ!」
「自業自得だ。全く、もう十四だろう。そろそろ小女神宮(レグナスコラ)も卒業だってのに落ち着きのない……」
 そのまま説教を始めそうなフィグに、ラウラは「しまった」という顔で目をうろうろさせる。その時、ラウラの視界にあるものが映った。
「あーっ!」
 ラウラの叫びに、フィグはぎょっとしてその視線を追う。そこには島の中央にそびえる巨大な山の姿があった。頂を常に白い雲に覆われたその茶色い岩山は、その外観がまるで巨木の切株のように見えることから世界樹の切株(ユグドラシル・スタンプ)≠フ名で呼ばれている。今、その山頂を覆う雲からひとかたまりの雲が分かれ、翼の生えた船の形に変化してこちらへ飛んでこようとしていた。
「もう女神の雲船≠ェできてる!早く準備しなきゃ!」
 言いながらラウラは前髪をとめていた髪留めをはずす。それは瞬く間にラウラの身の丈の半分はあろうかという長さの杖に変化した。杖の先が丸く湾曲した独特の形状のそれは、まるで柄の先に苺の形の飾りのついた一本の巨大な銀の匙に見えた。この島でレグナースとして生を享けた者のみに贈られる銀の匙杖(シルヴァースプーンワンド)≠セ。
 これからその巨大なスプーンで何かをすくおうとでもするように杖を構え、ラウラはフィグを見つめる。
「ルールは前と同じでいいよね?お題はどうする?」
 フィグもカバンを地に置き、デッキブラシを構える。
「じゃあ今回は『世界の幻獣』ってことで」
 山から飛んできた船型の雲が見る間に二人の頭上を覆う。そしてそこから砂糖粒のようにきらきら輝く白銀の雪が無数に降り始めた。
「じゃあ、しりとり夢術合戦・古今東西世界の幻獣スタートだ。まずは俺から」
 次々と舞い降りてくる雪は、タンポポの綿毛のようにふわふわと宙に遊ぶ。フィグが空中でデッキブラシを一閃させると、それは磁石で引きつけられたかのようにブラシの先に集まってきた。フィグはそのまま鋭く言葉を発する。
「夢より紡ぎ出されよ=Iスノッリのエッダよりフェンリル=I」
 瞬間、白銀の光が弾けた。ブラシの先にかき集められた雪の粒たちが、光を放ち、融合し、形を変えていく。やがてそれは、四肢に足枷、全身にリボンのように細い不思議な素材の鎖を絡みつかせた一匹の狼の姿となった。しゃらしゃらと鎖の音を響かせながら野を駆け回るフェンリル≠フ姿にラウラは「おぉー」と感嘆の声を上げ拍手する。
「さすがフィグ!すごくリアルな夢晶体(レクリュスタルム)だね」
 この島には、女神の夢見の力が溶け込んだ目には見えぬ細かな粒夢粒子(レフロゥム)≠含んだ雪が降る。夢雪(レネジュム)≠ニ呼ばれるその雪は島の人間の夢見る力に反応し、形を変える。人々は己の夢を具現化させるその技を夢術と呼び、夢術により紡ぎ出したものを、夢粒子の結晶夢晶体(レクリュスタルム)≠ニ呼んでいた。


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このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話夢見の島の眠れる女神の本文ページです。
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