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ファンタジー小説|夢の降る島

第1話:夢見の島の眠れる女神
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第1章:夢の降る島(3)

「感心してる場合か。次はお前の番だぞ」
「そうだった。んー……。フェンリルか……。ル、ル……。よし!決めた!」
 ラウラは地に降り積もった夢雪にスプーン状の杖の先端を差し込み、すくうように持ち上げた。
「夢より紡ぎ出されよ!アラビアンナイトよりルフ鳥=I」
 先ほどと同じように、杖の先で光が弾ける。それは宙に舞う他の雪片をも巻き込みながら大きくなっていき、そのまま空高く飛び上がった。
 現れたのは、両翼の長さが十五メートルはあろうかという巨鳥。象でも持ち上げられそうな太い脚はウロコで覆われ、そこだけ見るとまるで恐竜の脚のようにさえ見える。体だけ見れば恐ろしい怪鳥。しかし、その首の上についた顔は……
「お前……っ、なんだあの鳥の顔はっ!何で象をも喰い殺す怪鳥があんなつぶらな瞳をしてるんだ。どこの文鳥だあれはっ!ルフは鷲に似た猛禽類のはずだぞ!」
「えー?だってカワイイ方がいいじゃない。恐い顔の鳥さんなんて私、想像できないし」
「……何のための練習だと思ってるんだ、全く。まあいい。ちゃっちゃと次行くぞ。夢より紡ぎ出されよ!『妖精の書』よりウンディーネ=v
「ウンディーネ……。ネ、ネ……。夢より紡ぎ出されよ!『画図百鬼夜行』より猫また=I」
「じゃあ、『今昔百鬼拾遺』より滝霊王=v
 フィグが猫またが完全に紡ぎ出されるより早く言葉を繰り出すと、ラウラは途端にうろたえ、焦ったように杖を振り回した。
「う!?えっと……えっと……夢より紡ぎ出されよ、ウンディーネ!」
 ラウラの出現させたどことなく幼げなウンディーネのそばに、フィグの出現させていた妖艶なウンディーネが、仲間を見つけたとでも言いたげに嬉しそうに近寄っていく。ラウラはハッとしたようにそれを見た後、がくりとうなだれた。
「そうだった……。ウンディーネはもう出ちゃってたんだっけ……」
「ばーか。こっちにつられてペースを崩すからそういうことになるんだ。今回で何敗目だ?ラウラ」
「うー……っ、次は負けないもん!もう一回勝負しようよ!」
「……いや、今日はもう無理そうだぞ」
 フィグはそう言って空を仰ぐ。頭上に浮かんでいた女神の雲船は、いつの間にか見る影もなく小さくすぼみ、そこから降る雪も見えるか見えないかほどの小降りになっていた。
「えぇ!?まだ一時間も経ってないのに!?最近夢雪やむの早くない!?」
「俺に文句を言われても何もできんが、確かに早いな。昔は一日中降っていたこともあったのに……」
 フィグは地に積もっていた雪をデッキブラシで掻き集め、カバンから取り出した虹色に透き通った小瓶に詰めだした。ラウラも杖の先で雪をすくい、それを手伝う。やがて雲船は完全に姿を消し、それと同時に野に積もっていた雪やフィグとラウラの紡ぎ出した幻獣たちも陽の光に溶けるように消えた。だがフィグが小瓶に詰めた雪だけは溶けずにふわふわと瓶の中で揺れ動き続けている。
 フィグは小瓶の蓋をそっと開け、中身をデッキブラシ全体にまんべんなく振りかけた。
「夢より紡ぎ出されよ。千夜一夜物語より魔法の木馬=v
 言いながらデッキブラシから手を放すと、ブラシは白銀に輝きながら形を変え、金細工や宝石をちりばめた黒い木馬へと変化した。
「花曇りの都まで送る。乗れよ」
「うん。ありがとう。……ゆっくりでいいからね」
 二人を乗せた木馬は音もなく宙に浮き上がり、ラウラの希望通りゆっくりと走り出した。


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このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話夢見の島の眠れる女神の本文ページです。
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