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第1話:夢見の島の眠れる女神
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第5章 星のめぐる夜の夢(3)

「いつか俺はこの島の外に出るんだ。ギリシャ神話やケルトの妖精や神仙の生まれた国を自分の足で巡ってみたい。そしてそんな“夢”たちがどうやって生み出されたのかを知りたい。いつかきっと、ここよりもっと広い“果てのない”世界を旅するんだ!」
(……やだよ。私を置いて知らない世界に行っちゃやだ。置いていかないで。ずっといっしょにいたいのに……)
 ラウラの不安に揺れる瞳に気づかず、フィグは笑顔で話を続ける。
「だから、その時はいっしょに来いよな、ラウラ」
「え……?」
「『え?』じゃないだろ。俺を一人ぼっちにする気かよ。いっしょに来るよな?な?」
「行く!」
 ラウラは何も考えずに即答していた。
「行く!ぜったい行く!だからいっしょに連れてって!」
「ああ、もちろん。だからお前もその時までに、もっと夢術(レマギア)を上達させておけよ。この島の外に出るには、きっとものすごい夢見の力が必要になるんだからな」
(そっか。この先もフィグといっしょにいるためには、今のままの私じゃダメなんだ。もっと力がないと。フィグみたいに何でもできるようにならないと。そうじゃなかったら、きっと置いていかれちゃう……)
 見上げた先には、眩しいほどのフィグの笑顔と、廻り続ける星空。ラウラはこの光景を、一生忘れないだろうと幼心に思った。

 翌朝、目が覚めると、いつの間にか頬が濡れていた。
 ラウラはネグリジェの袖でそれを拭い、見た夢を思い返してみる。
 結局あの後、星の音を聴いているうちにうとうとしてしまった二人は、丘の上で眠り込んでいるところを捜索隊の夢術師(レマーギ)たちに発見され、家に連れ戻された。時間の狂う森で二人が一日半を過ごしている間に、森の外では二週間が経っていたらしく、二人は憔悴した両親に泣きつかれたり、こっぴどく叱られたりした。
「懐かしいな……」
 思い出し、思わずくすりと笑みを零す。
「どうしたの、ラウラ。朝からご機嫌そうね」
 同室のキルシェが、今洗顔をしてきたばかりという格好で部屋に入ってくる。
「うん、ちょっと懐かしい夢を見ちゃって。夢の中って、すごく鮮明に記憶が再現されるものなんだね。覚えてるつもりで忘れてたいろんなこと、全部思い出した……」
 そこまで言って、ラウラは自分で自分の言葉に驚いたように唇の動きを止めた。
「ん?どうしたの?ラウラ」
「……そっか。忘れてる思い出。美しいだけじゃない、思い入れの籠もった愛しい風景……。これが、答えになるかも知れない」
「え?あんた何言ってんの?」
「キルシェちゃん!私、ちょっと花歌の園まで行ってくる!」
 ラウラはがばっと起き上がり、脱いだ寝巻きをぽいぽいとベッドの上に放り出す。
「は!?あんた、朝食は!?顔もまだ洗ってないでしょ!?」
「ダッシュで戻ってくるから大丈夫!今行っとかないと、せっかく浮かんだアイディアがしぼんじゃいそうなの!」
 適当な服に身を包み部屋の窓を全開にしたラウラは、小瓶に詰めた夢雪(レネジュム)銀の匙杖(シルヴァースプーンワンド)に振りかけ叫ぶ。
「夢より紡ぎ出されよ!ジェットエンジン搭載・耐火耐熱装備付空飛ぶホウキ!」
「ジェットエンジンって、あんたソレ、前に失敗してホウキ燃やしたやつじゃ……」
「だから今回は燃えない装備にしたの!じゃあキルシェちゃん、行ってくるねーっ!」
 銀色に輝くホウキにまたがったラウラは、音速の速さで部屋を飛び出し、その一瞬後にはもう小女神宮(レグナスコラ)の屋根の遥か上空にいた。「きゃー」という悲鳴とエンジンの轟音が残響のように残される。
 エンジンの爆風で物がめちゃくちゃに散乱した部屋に一人残され、キルシェはしばらくの間、呆然と立ち尽くしていたが、やがて不気味に笑いだした。
「ラウラめ……。この後始末の貸しはでかいわよ。覚えてなさい」


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このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話夢見の島の眠れる女神の本文ページです。
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