第1話:夢見の島の眠れる女神
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- 第4章:
夢 紡ぐ小女神 (3) -
「何を泣いているのですか?家が恋しいのですか?」
最初にそう声を掛けられた時、ラウラは一度頷いた後、急いでその首をふるふると横に振った。
「家にも帰りたいけど……泣いてたのはそのせいじゃなくて……フィグと会えないのが、悲しいの」
「フィグ?」
「おとなりの灯台の、男の子。小女神 は男の子と会ったりしちゃダメなんだって、みんな言ってる。そんなの嫌だよ。ずっと一緒にいるって約束したのに、もう会えないなんて、そんなの、嫌……っ」
嗚咽混じりに訴えるラウラの顔をしばらくじっと見つめ、シスター・フレーズはふいに悪戯っぽく微笑んだ。
「大丈夫。会えますよ。実は、この小女神宮 には外へと通じる秘密の抜け道がいくつかあるのです。コツさえ覚えれば、シスターの目を盗んで外へ抜け出して、誰にも気づかれないうちにまた戻ってくることさえできるようになります」
そのシスターらしからぬ台詞に、ラウラは自分が泣いていたことさえ忘れ、呆然と彼女の顔を見つめた。
「え?どうしてそんなこと教えてくれるの?お姉さん、シスターなのに」
「私はシスターである前に、全ての小女神 の味方なのですよ。それに、小女神 だから恋をしてはいけないなんて、そのような風潮、私は認めていません。純潔を守ることと、恋をすることとは全く別のこと。恋を知ってこそ得られるものもあるはずですから……」
胸の前で両手を組み、静かに語る彼女の声には、まるで自分の経験を語ってでもいるかのような不思議な実感が籠もっていた。だが当時のラウラにはそんなことに気づく余裕も、彼女の話を理解するだけの能力もなく、ただきょとんと首を傾げるばかりだった。
「……あなたには、まだ難しい話でしたね。けれど、そのうちにきっと分かります。ですから、その男の子に対する想いを、失くさずに大切にしていってください。その想いがあなたにどんな成長をもたらすのか、楽しみに見守らせてもらいますから」
こうして始まったふたりの交流は、今もこうして、誰にも見咎められることのない夜の小女神宮 の片隅で続けられているのだ。「どうしてかな、シスター・フレーズって、私が悩んだり迷ったりしてると、いつも今みたいに来てくれるよね。まるで私の考えてることが全部分かってるみたいに」
ラウラが笑って言うと、シスター・フレーズは何故か、やや困ったような顔で微笑んだ。
「分かっていますよ。私は小女神宮 の全ての小女神 を見守るために、ここにいるのですから」
「そっか。えへへ。なんか嬉しいな」
「……また何か、迷っていることがあるのですね?」
「うん。選考会の題材のことで、ちょっと……」
「先に言っておきますが、選考基準など、選考会の詳細に関わるアドバイスはできませんよ。他の小女神 に対して悪いですから」
「うん。分かってる。いいよ。話を聞いてくれるだけで。だってシスター・フレーズって、一緒に話してるだけで心が落ち着くんだもん」
ラウラは銀の匙杖 をぎゅっと握り直し、ぽつりぽつりと話し始めた。
「あのね、さっき練習してた“めくるめく四季”って、私が今まで出会った景色の中で、感動したもの、綺麗だと思ったもの、好きなものを集めて、春夏秋冬の順番に並べたものなんだ。キルシェちゃんも褒めてくれたし、私も最初に思いついた時には『イケる』って思ったんだけど……なんだか、何かが足りない気がして」
このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話の本文ページです。
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