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第1話:夢見の島の眠れる女神
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第4章:紡ぐ小女神(レグナース)(2)

 キルシェが目を吊り上げて反論しようとしたその時、回廊から一人の小女神(レグナース)が走り寄ってきた。豊かにウェーブする亜麻色の髪が特徴的なその小女神(レグナース)は、アプリコット・アプフェルだ。
「三人とも、またケンカしてるの!?」
「止めないでアプリ。アメイシャには社会生活における礼儀と常識ってやつを誰かが教えてやらないといけないのよ」
「礼儀はともかく、常識ならば私より先に君の親友に教えてやった方がいいのではないか?何せシスター・アルメンドラもお嘆きの“常識外れのカタマリ”だからな」
「ちょっとアメイシャ、言い過ぎよ」
 アプリコットがたしなめる。だが言われた本人は怒るどころか、褒め言葉でも聞いたかのようにニコニコしている。
「ラウラ、何笑ってんの。あんためちゃくちゃ馬鹿にされてんのよ?」
「え?だって常識に囚われないって大事なことでしょ?人をアッと言わせる発想は、先入観や常識から外れた自由な思考から生まれるって夢術師(レマーギ)の先生方も仰ってたし」
 ラウラの言葉に他の三人は一瞬無言になり、脱力したように吐息した。
「……話にならん。だから私は君が嫌いなんだ」
 アメイシャはラウラから目を逸らすと、そのまま無言で中庭を出ていった。アプリコットもその後を追うように立ち去る。泉には元通り、ラウラとキルシェの二人が残された。
「あんたって何だかよく分からないけどスゴイよね。あのアメイシャに勝っちゃうんだから」
「今の、勝ったって言えるのかなぁ?」
「うーん……。でも少なくとも負けてはいなかったよ。やっぱりあんたしかいないかな、アメイシャ相手に夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)を勝ち獲れる大穴がいるとしたら」
「えー?キルシャちゃんも目指すんでしょ?夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)
「そりゃあ私もベストは尽くすよ。でも、負けるのがあんただとしたらきっと不満には思わない。むしろ見てみたいと思うよ。あんたの夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)姿」
 ふいにしんみりと言われ、ラウラは思わず瞳を潤ませた。
「キルシェちゃん……」
「でも、さっきの夢晶体(レクリュスタルム)を見る限りじゃ有り得ないけどね。あんた、趣味に走り過ぎ。審査官はかなりのベテラン夢術師(レマーギ)ばかりなのよ。動物出して『あ〜カワイイ〜』で良い評価をくれるわけないでしょ。もっと頭使って玄人受けの良さそうな小難しげな夢晶体(レクリュスタルム)を紡ぎ出さないと!」
 漂いかけたしんみりムードを自ら木端微塵に吹き飛ばし、キルシェはからからと笑う。ラウラはがくりと肩を落とした。
「キルシェちゃん、辛口過ぎ。おまけになんか、打算的だよ……」

 小女神宮(レグナスコラ)の夜は早い。六時の鐘が鳴る頃に食堂で全員そろっての祈りと食事を終えると、片付けや入浴、身支度を済ませ、八時の鐘が鳴る頃にはもう消灯時間となる。だが、まもなく大切な選考会を控えた最年長者たちについてだけは、例外的に練習や準備のための夜更かしが許されていた。
 ラウラは鐘楼のバルコニーに一人立ち、銀の匙杖(シルヴァースプーンワンド)を構えていた。その目に映るのは花雲の合間からのぞく満月と、その光を浴びながらひろひろと宙を舞う白い花びら。ラウラは月の縁をなぞるように杖を振るった。
「夢より紡ぎ出されよ!“めくるめく四季”!」
 だが、それはほんのわずか花びらを揺らしただけで、後には何も起こらなかった。
「選考会へ向けてのイメージトレーニングですか。どうやら題材は決まったようですね」
 声をかけられ振り向くと、そこには乳青色(ミルキーブルー)尼僧衣(シスターローブ)に身を包んだ二十代前半と思しき女性が一人、立っていた。
「シスター・フレーズ!」
 ラウラの顔がぱぁっと輝く。シスターはどこか儚げに微笑んだ。
「もしかして、私を待っていたのですか?」
「うん!だって、シスター・フレーズって昼間はなかなかつかまらないし。いつもみたいに夜に一人でここにいれば会えるかなって思って」
 ラウラが彼女と初めて会ったのは、小女神宮(レグナスコラ)に上がって間もない頃のことだった。両親や住み慣れた家から引き離され、今まで会ったこともなかった同年代の小女神(レグナース)たちの中に放り込まれたラウラは、すぐには環境に馴染むことができず、誰もいない小女神宮(レグナスコラ)の片隅で一人、泣いてばかりいた。そんな時に声を掛けてくれたのがシスター・フレーズだったのだ。


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このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話夢見の島の眠れる女神の本文ページです。
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