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第1話:夢見の島の眠れる女神
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第7章 ラウラの紡ぐ夢(8)

 何か思いつめたような顔で沈黙するシスター・フレーズを、ラウラは心配そうに見上げた。
「どうしたの?シスター・フレーズ」
「……私は、何がどうあっても他人に判断を委ねるべきではなかったのかもしれません」
「え?判断って、何のこと?審査会議のことを言ってるなら、べつに気にしないよ。シスターは、同席はしてても意見はあくまで参考にされるだけで、最終判断は結局審査官が下すものだって聞いてるし」
「そうではありません。私は、己の判断に自信が持てず、決断を島の民たちに委ねようとしました。全ての小女神(レグナース)を公平に見なければならない立場でありながら、いつの間にか、ひとりの小女神(レグナース)だけを特別な目で見ている自分に気がついていましたから……」
「え……?」
「でも結局は、島の民の判断に納得ができず、己が手で判断を下そうとしています。私の優柔不断のせいで、あなたや、アメイシャ・アメシスに余分な苦しみを与える結果となってしまいます。それでも、私にはもう、あなたしか選べません。あなたよりふさわしい小女神(レグナース)はいないと、確信してしまいましたから……」
「え?何を言ってるの?シスター・フレーズ」
「……ごめんなさい。あなたにはこれから、多大な犠牲を払ってもらわなければなりません。それでも、世界には……そして私には、あなたが必要なのです」
 “犠牲”という不穏な単語にラウラの顔が強張る。
「犠牲って、何?何のことを言っているの?シスター・フレーズ」
「いずれまた、ゆっくりとお話しします。ですが、今はまだ……」
 躊躇うように途中で言葉を切り、シスター・フレーズはラウラの髪を優しく撫でた。
「きっと、私があなたに惹かれた、その時点で既に答えは出ていたのでしょうね。理性や理屈よりも先に、感情が答えを出してくれることもあるのでしょう」
「シスター・フレーズ……?あなたは、一体……」
「さようなら、ラウラ。残された時間を、せめて大切に……」
 シスター・フレーズはそう言い残すと、階段の方へと身を翻した。ラウラはあわてて後を追う。だが、彼女の姿は既にどこにも見当たらなかった。ラウラは嫌な予感に突き動かされ、そのままシスター長の部屋のドアを叩く。
「何ですか、騒々しい」
 アルメンドラが不機嫌そうな顔で出てくる。
「シスター・アルメンドラ!シスターの部屋の場所を教えて!さっき、すごく様子が変だったの!」
「何ですって?一体どのシスターのことを言っているのです?」
「あの人だよ!シスター……」
 言いかけ、ラウラはハッとした。ついさっきまで何度も呼んでいたはずの彼女の名が、なぜかどうしても頭に浮かばない。
「えっと……、えっとね、名前は忘れちゃったんだけど、あの人だよ。長い栗色の髪で……そうだ、前髪に、いちごとハートを組み合わせた形のヘアピンを留めてた……!」
「名前を忘れたとは何ですか。毎日世話をしてもらっているシスターの名前くらいちゃんと……」
 小言を言いかけ、アルメンドラはふと何かを思い出したように唇を止めた。
「ラウラ・フラウラ。あなたは先ほど、いちごとハートを組み合わせた形のヘアピン、と言いましたか?」
「え……?はい。そうですけど……」
 アルメンドラは記憶を探るように遠い目をした後、何かを否定するように首を振った。
「……いいえ、そんなはずはありませんね。私もそんな髪飾りをつけたシスターには覚えがありますが、その人があなたの言うシスターであるはずがありません」
「え?そんなことないよ。だって、シスター、審査会議にも出席してたって言ってたもん。絶対、シスター・アルメンドラも知ってる人のはずだよ」
「審査会議にいた?ならば、ますます違いますね。なぜなら私の覚えているそのシスターは、私がまだ小女神(レグナース)だった頃に小女神宮(ここ)にいたシスターです。覚えているのは、ただ一度会った時のことだけですが。ですから、あなたの言っているそのシスターと同一人物であるはずがありません。そして現在この小女神宮(レグナスコラ)にいるシスターの中で、あなたの言う髪飾りをつけたシスターは一人もいません。何か記憶違いをしているか、さもなくば……幽霊(ファントム)にでも会ったのではありませんか?」
「幽霊……?」
「ええ。小女神宮(レグナスコラ)の七不思議とやらであるでしょう?まぁ、幽霊などと言っても、時々人間の残留思念が夢粒子(レフロゥム)と反応して現れるという、(ファンタズム)の類なのでしょうが。夢粒子(レフロゥム)が濃く漂う小女神宮(レグナスコラ)ならば、べつに不思議なことではありません」
 シスター・アルメンドラはどこか自慢げに説明した後、反応のないラウラの顔を怪訝そうに覗き込んだ。
「ラウラ・フラウラ?」
「……どうして?シスターのこと、思い出そうとしてるのに、どんどんぼやけてく。まるで夜に見た夢を忘れていっちゃうみたいに……。こんなことって……。あの人は、一体誰だったの?」


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このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話夢見の島の眠れる女神の本文ページです。
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