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第1話:夢見の島の眠れる女神
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第7章 ラウラの紡ぐ夢(7)

 審査会議は例年になく紛糾した。ラウラの夢術(レマギア)をどう捉えるかで、審査官の意見が割れたからだ。ラウラにとってあまりに不本意であろう発言の数々に我慢ができず、シスター・フレーズは思わず立ち上がり、意見を述べていた。
「皆さん、どうして自分の心に素直に耳を傾けないのですか?皆さんは、ラウラ・フラウラの夢術(レマギア)に何も感じなかったのですか?」
 場は一瞬、静まり返る。だが、すぐにその言葉は一蹴された。
「確かにラウラ・フラウラの夢術(レマギア)は感動的だった。だが、我々は感情的に審査を下すことはできないのだ」
「我々が感動したのはラウラ・フラウラの夢術(レマギア)にではない。自分自身の記憶に感動したのだよ。そこを間違えてはいかん」
「そもそも、全員見た光景が違うのでは審査のしようがないではないか。あれでは夢術(レマギア)の基礎能力をどの程度持っているものなのか、全く判断がつかん。そんな実力も分からぬあやふやな小女神(レグナース)に世界の運命を託すのは危険じゃよ」
「そう。今年の選考会は世界の命運がかかっているのだからな。慎重に選ばねばならん。その点、アメイシャ・アメシスならば安心だ。実力も折り紙つきだからな」
 シスター・フレーズは審査官たちを厳しく見据え、尚も唇を開く。
「真の夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)に求められるものは、単なる実力だけではなく、その心なのではないのですか?皆さんには分からなかったのですか?ラウラ・フラウラの夢術(レマギア)に込められた、優しい想いが」
 だが、その言葉さえも審査官たちの心には届かなかった。
「確かにそうかもしれん。だが、心など目に見えぬものをどうやって計れと言うのだ。結局は目に見える結果で判断を下すしかないのだよ」
「心など、主観によって左右されるもので判断するのは公平性に欠けるだろう。ならばいっそ、各候補者の夢晶体(レクリュスタルム)を項目ごとに数値で評価し、その総合点により優勝者を決めるのはどうだろう」
「なるほど、それならば分かりやすいし、後々のためにデータとして残すこともできる」
「ならばさっそく、項目と何点満点なのかを決めましょう」
 一旦話がまとまると、それまで揉めていたのが嘘のように会議はスムーズに進行していった。そして各審査官の採点の結果、ラウラは発想力では満点をとったものの、他の項目で伸び悩んだため、アメイシャに敗れることとなった。
 シスター・フレーズはそれ以上審査に口を出すことはなかった。ただ、会議が終わり退室する間際、こんな一言を残していった。
「……残念です。夢術師(レマーギ)の中の夢術師(レマーギ)たる審査官の皆さんなら、正しい判断をしてくれると思っていました。皆さんは分かっていないのですね。“夢”が、何のために存在しているのかを……」
 審査官たちはその言葉に対し特に反応は返さなかった。だが、ふと一人が思いついたように近くにいたシスターに尋ねた。
「先ほどのシスター、何という名のシスターなんだね?」
 問われたシスターは答えようと口を開きかけ……そのまま何も言えずに目を見開いて沈黙した。
「どうした?まさか名を忘れてしまったなどと言わんだろうね」
「えぇと、あの……、その通りです。忘れてしまいました」
「は?」
「どうしても、思い出せないんです。顔は知っているはずですのに、彼女が何という名で、どういう人間なのかが、どうしても頭に浮かばないんです。……まるで、夢の中で会った人のことを思い出そうとしているみたいに」


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