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第1話:夢見の島の眠れる女神
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第7章 ラウラの紡ぐ夢(5)

 夢が破れた日でも、いつもと同じように時間は過ぎていき、日は暮れる。
 ラウラは鐘楼の壁に身をもたせ、膝を抱えて空を見ていた。薄紅の花びらが夕日を透かし、灯を点したように光りながら降ってくる。ラウラの好きな光景だった。
「ラウラ・フラウラ」
 ふいに声をかけられても、ラウラは驚かなかった。何となく、来てくれるような気がしていたし、心のどこかで期待してもいた。
「シスター・フレーズ……、来てくれたんだね」
 シスター・フレーズは身体の重みを感じさせない、どこか浮世離れした足取りで、ふわりふわりと尼僧衣(シスターローブ)をなびかせながら歩み寄って来る。
「選考会でのあなたの夢術(レマギア)、見せてもらいました。とても素晴らしいものでしたね」
「……ありがとう。でも、選ばれなかった。頑張って考え出したのにな。ああいう風に評価されるなんて、思ってもみなかった」
 シスター・フレーズはしばし無言でラウラを見つめた後、おもむろに唇を開いた。
「あなたの夢術(レマギア)は補助的なものなどではありませんでしたよ。確かにあなたは夢を物質として具現化したわけではありませんでした。人によっては、あなたは何も紡いでいないということになるのかも知れません。ですが、私は知っています。あなたは“魔法”を紡ぎ出したのですね。あなたにしか紡げない、皆を幸せにする、あなただけのオリジナルの“魔法”を」
「シスター・フレーズ……」
「それに、技術的にも革新的なものでした。あなたは夢雪(レネジュム)を霧状の細かな水の粒に変え、人々に吸わせることにより、その人の意識の中に夢晶体(レクリュスタルム)――夢幻灯機(ファンタレム・プロジェクタ)を紡ぎ出しだのですね。夢雪(レネジュム)による音楽と囁きで人々がその頭の中にある一番大切な記憶を思い出すよう暗示をかけた上で……」
「うん。夢幻灯機(ファンタレム・プロジェクタ)って、触れた人の脳内イメージを増幅して周囲に映し出す仕組みでしょ?本来は本の中の風景を映し出すための道具だけど、人間の記憶に使ってみたら、ぼんやりしてる昔の思い出も鮮明に蘇るんじゃないかって思って。夢雪(レネジュム)を霧に変えるのは、いろいろ実験してみて、あれが一番上手くいったからなんだ。何十回も、失敗しては方法を変えて……選考会までに間に合うのかすっごくはらはらしたよ。成功した時には、自分でも驚いたし、すごくうれしかった。私にこんな夢が紡げるなんて、自分でも思ってなかったもん。今まで紡いできた中でも一番の、最高の夢だって思った。誰にも負けない夢だって。……でも、結局は負けちゃったんだよね」
 自嘲するようなその声に、シスター・フレーズは静かに首を横に振る。
「あなたの夢は負けてなどいません。少なくともあの場に集まった島の民たちは皆、アメイシャ・アメシスではなくあなたを夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)に選んでいました」
「……そっか。それは……うれしいな」
 ラウラは寂しげに微笑む。嬉しいとは言いながらも、心の底からは喜べないと言いたげな笑顔だった。その笑みの裏に隠された思いを、シスター・フレーズは敏感に感じ取った。
「悔しいのでしょう?悲しいのでしょう?あなたのその思いは当然のことです。あなたが今日のために数年間、どれほどの努力を重ねてきたのかを私は知っています。……ずっと見てきましたから」
 端から見ればいつも気楽にへらへらしているようにしか見えないラウラだが、その陰でどれほどの努力を積んできたのか、シスター・フレーズは知っていた。
 夢見の娘を目指すことを決めてから、ラウラは一日も努力を欠かしたことはなかった。ただ、ラウラはその努力を一人遊びや他人と競い合う遊戯(ゲーム)に変え、努力の上に『努力を楽しむための努力』を重ねてきた。それがゆえに、周りからは何の努力もせず、ただ遊んでいるようにしか見られてこなかったのだ。
 ラウラは膝に頬を埋めたまま、呟くようにぽつりぽつりと語りだした。
「こんなに悔しかったり悲しかったりするなるなんて、私、思ってなかったよ。だって、夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)になりたいのは皆同じだもん。皆、同じように努力して、頑張ってるんだもん。だから、その結果誰が選ばれても恨みっこなしって、今日が来るまではずっと思ってた。なのに、無理だった。私、今、すっごく辛い気持ちで頭がぐるぐるしてる。メイシャちゃんに『おめでとう』って、笑って言うことができない。『何で私の夢術(レマギア)が選ばれなかったのか』って……そんなことばかり考えちゃうんだ」
「ラウラ……」


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このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話夢見の島の眠れる女神の本文ページです。
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