ファンタジー小説サイト|言ノ葉ノ森

ファンタジー小説|夢の降る島

第1話:夢見の島の眠れる女神
TOPもくじ
(※本文中の色の違う文字をタップすると別窓に解説が表示されます。)

第7章 ラウラの紡ぐ夢(4)

 夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)選考会は、小女神宮(レグナスコラ)の人間と一般の島民が触れ合える数少ない機会だ。小女神宮の奥で審査会議が行われている間にも、外では模擬店や劇・ダンスの披露などの交流行事が行われ、そこは普段とは違う、ちょっとしたお祭のような雰囲気になる。
 見物に訪れた島民たちは、そんな雰囲気を楽しみながらも、話題は先刻行われた選考会のことでもちきりだった。とは言え話題の中心は、例年のように誰が夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)に選ばれるかということではない。ほとんどの人間が目を輝かせて語るのは、ラウラの夢術(レマギア)によって自分がどんな思い出を蘇らせたのかということだった。
 やがて数時間の時を経て、審査会議の終わりが告げられる。その合図は審査官の一人が夢術(レマギア)で打ち上げる煙火(はなび)だった。それは青空のキャンバスにするすると筆を走らせるように、紅の煙で華麗な薔薇の花を描いていく。爆音の代わりに響き渡るのは重厚なオーケストラのファンファーレだ。人々はその合図を機に、再び選考会場へと集まっていく。
「それではこれより夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)選考会の選考結果を発表致します」
 シスター長・アルメンドラの厳かな声に、ざわついていた会場が一気に静まりかえる。
 観客たちの視線はシスター長の前に並ぶ四人の小女神(レグナース)のうちの一人――ラウラ・フラウラに熱く注がれていた。結果発表を待つまでもなく、既に夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)は決定しているとでもいうように。
 キルシェは自分のことのような誇らしげな顔でラウラを見つめ、アメイシャは表情を隠すようにうつむき、アプリコットはそんなアメイシャを気遣わしげに見ている。そしてウラウラは、緊張のあまりガチガチに固まり、棒のようにその場に立っていた。
「厳正なる審査の結果、今年度の“夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)”に選ばれたのは……」
 アルメンドラは勿体をつけるようなわずかの間を置き、今までと変わらぬ声音でそれを告げた。
「アメイシャ・アメシス」
 呼ばれたその名に、人々の間からどよめきが起こる。信じられないことを聞いたとでも言うような、納得できないとでも言いたげな声だった。
 夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)候補者たち四人も信じられないという表情でアルメンドラを見つめている。名を呼ばれたアメイシャ当人でさえそうだった。アルメンドラは大きく咳払いをし、言葉を続ける。
小女神(レグナース)ラウラ・フラウラの夢術(レマギア)は、確かに素晴らしいアイディアを持った、今までにないものでした。しかし、その夢術(レマギア)はラウラ・フラウラ自身の力のみで紡がれたものではなく、あくまで皆の思い出を引き出す補助的役割を果たしたに過ぎません。それを、自らの力のみを用いて夢術(レマギア)を紡いだ他の候補者と同等に比べることはできない、というのが審査官の皆さんの意見でした。よってその分を差し引き、夢晶体(レクリュスタルム)の量・質・範囲、細部までの描写力、構成力、発想力などにより総合的に判断した結果、優勝者はアメイシャ・アメシスと決定したのです」
 初めこそ驚いた表情で固まっていたアメイシャだったが、その顔には次第にいつもの皮肉な笑みが戻っていった。アメイシャは未だ呆然と立ち尽くすラウラにくすりと笑って囁きかける。
「『策士策に溺れる』とはこういうことだな。君の夢術(レマギア)は確かに人々を感動させた。だが実際のところ、君は形となるものは何一つ紡ぎ出していない。審査官たちはそのことを冷静に見定めていたようだ。残念だったな」
「アメイシャ、打ちひしがれている人にそんなことを言ってはダメ」
 アプリコットがたしなめる。だがアメイシャは謝りもせず、優雅な足取りで優勝者の席へと歩いていく。
「以下の順位は次の通りです。二位ラウラ・フラウラ、三位アプリコット・アプフェル、四位キルシェ・キルク……」
 順位の発表もアメイシャによるスピーチもラウラの耳には全く入っていないようだった。ラウラはただ凍りついたように前を向いたままその場に立ち続け、全てが終わるなり、逃げるようにその場から走り出した。キルシェもアプリコットも掛ける言葉が見つからず、ただ黙ってそれを見送ることしかできなかった。


もどるもくじすすむ

このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話夢見の島の眠れる女神の本文ページです。
個人の趣味による創作物のため、全章無料でお読みいただけますが、
著作権は放棄していませんので、無断転載等はおやめください。

 
inserted by FC2 system