第1話:夢見の島の眠れる女神
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- 第7章 ラウラの紡ぐ夢(1)
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「うわー、可哀想だな、お前の幼なじみ。よりにもよってアメイシャ様の後に演技だなんて。こりゃ、皆まともに見やしないぞ」
未だアメイシャの夢術 に酔いしれざわめく人ごみの中、リモンが本気の同情を込めて言う。その声にフィグは硬い表情でうなずいた。
夢見の娘 選考会は島の少年たちにとっても重大な関心事だ。フィグたち四人も当然のように選考会の見物に訪れていた。だが、演技スペースがよく見える前方の場所は既に他の島民たちに埋められており、フィグたちは人と人の合間から必死にのぞき見ることしかできなずにいた。フィグがここにいることに、おそらくラウラはまだ気づいていない。
フィグはもどかしい思いで歯噛みした。せめて顔が見える位置にいれば、これから演技の場に出るラウラに声援 を送ることができるのに、こんな後ろの場所ではそれすらもできない。
「ダメ元で大声で応援してみる?こんなにザワザワした中じゃ向こうに聞えないかもしれないけど」
ビルネの提案にフィグはうなずきかけ、だがすぐに首を横に振った。人垣の隙間から一瞬、演技の場へ駆けてくるラウラの顔が見えたからだ。
フィグは強張っていた表情を緩め、ラウラにつられたように微かな笑みを浮かべた。
「……大丈夫だ。あいつは緊張も動揺もしていない。心から選考会を楽しんでる」ラウラは演技スペースの中央にちょこんと立つと、まだざわめきの治まらない周囲へ向け、ぺこりとお辞儀をした。
「じゃあ、行きます!」
大きく振り上げた杖の先端を、夢雪 の積もった地に突き刺してラウラは叫ぶ。
「夢より紡ぎ出されよ!“思い出の走馬灯 ”!」
(……“思い出の走馬灯 ”?)
聞き慣れないその言葉に、フィグも、周りの人垣もさすがに雑談を止め一斉にラウラに目を向けた。静まりかえった会場の中、だが、地に積もった夢雪 にはっきりとした変化は何も起こらない。
(何だ……?一体、何をやろうとしてるんだ、ラウラ……)
人々が疑問の声にざわめきだす中、ふと一人の島民がラウラの足下を指差した。
「……何だ、あれ。煙か?」
演技スペースに振り撒かれた一面の夢雪から、水蒸気のように淡くほのかな白銀の光が立ち上ってくる。それは徐々にその密度を増し、霧のように辺りに漂い始めた。同時に、不思議な“音”が響き始める。
それは、降り積もった雪が一粒一粒溶けていくような、あるいはソーダ水の泡が弾けるような、風が木の葉を揺らすような、誰かのひそかな囁きのような、ささやかな、しかし確かに鼓膜をくすぐる音。初めは途切れ途切れに聞こえてきたそれは、重なり合い、響き合い、一つのメロディーを織り成していく。
(これは……“思い出のアルバム”か?あの日、ラウラと花歌の園で聴いた……)
このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話の本文ページです。
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