【泊瀬彦】   
夢の中でミヅハノメノカミが泊瀬のことを『泊瀬彦』と呼んでいますが、これは泊瀬の幼い頃(元服前)の呼び方というようなイメージで描いています。
 
ここでの『彦』は正式な名前の一部というよりも、『女の子だったらヒメ、男の子だったらヒコ』というような名前の後につく呼称というイメージで使っています。
 
【箱の中身は…】   
物語中に出てくる化粧箱(櫛の匣)は実際に昔の貴族が使用していたものを参考にしています。
 
この箱は、時代により形などが変わっていくのですが、奈良時代に使われていたものは資料で見る限り、フタ付きの四角い箱で、中には繊細は模様の織り込まれたカラフルな布が敷かれています。
 
さらに資料ではその布の上に銅鏡らしきものや櫛、昔のヘアピンにあたるものや勾玉などの玉や、小さな壺のようなものが見えます。
(複製品の写真が載っているだけで文章の説明が載っていないため、詳しくは分かりません。)
 
【后たちの序列】   
物語中で、泊瀬の母は三人目の后、正妃は葦立氏の出身という描写が出てきます。
 
霧狭司国の王族の結婚は政略結婚が主ですので、結婚の順番もまた、その時一番権力を持っている氏族から順番に后を迎えていくという形になっています。そして当然、一番権力を持つ氏族から嫁いだ后が正妃となるのです。
 
泊瀬の母の出身である射魔氏は霧狭司の氏族の中ではNO.3という位置づけになっています。だから三人目の后ということになっているのです。
 
国王も国内氏族の力関係には常に注意を払っており、より権力の強い氏族を重視し、その氏族出身の后を大切に扱うように心がけています。
とは言え、それはあくまで建前でのことであり、人の心、特に恋愛感情は政治的事情に左右されるものではありません。
表向きは正妃を大切にしているように見えて、実はその心は別の后に傾いていく、ということもあるのです。
そして女の勘はそんな男の心の移ろいを見逃しません。だから宮中では嫉妬が引き起こす女同士の戦いが常に繰り広げられているのです。
 
ちなみに霧狭司国の氏族のランク付けは、1位:葦立氏、2位:多麻(たま)氏、3位:射魔氏となっていますが、これは各氏族の設定上の領地面積・宮処との距離や重要施設の有無などにより、その氏族が国内でどの程度の財力・権力を有しているかを計算した上でのランキングとなっています。
 
【仕返しを禁じる理由】   
女神は泊瀬に仕返しをしてはいけない理由を『幼い泊瀬に逆恨みを買わずに上手く立ち振る舞う能力が無いため』と説明していますが、実はそもそも、泊瀬が何の証拠も無しに正妃に『仕返し』などをしたら、一族を巻き込んでの大問題になってしまいます。 
 
ですが女神はあえてその辺りの『大人の事情』はスルーして、幼い泊瀬でもなるべく納得のいくような、しかも『成長すればいつか自分の力で母親を助けてあげられるようになる』という希望が持てるような『理由』を口にしているのです。
 
【王族が夢で神に会う】   
本編中で泊瀬が『王の血脈には夢で神と見える者が時折生まれる』というようなことを言っていますが、これは古事記のエピソードや古代の資料を参考にしています。
 
祭政一致の時代、王は政治だけでなく、神を祀り、神の託宣(お告げ)を受けるというシャーマン的な役割も持っていました。
その『託宣』は夢に神が顕れるという形でもたらされ、王は『神牀(かむとこ)』という神聖な場所でその託宣を待ったとされています。
(古墳時代の高殿(高床式の館)を象った家形ハニワにも、この『神牀』らしき、床が一段高くなったベッド状のものが表現されています。)
 
古事記でも、国に疫病という重大な危機が迫った時、大王がくる日もくる日も神牀にじっと座り続け、神からのお告げを待ったというエピソードが出て来ます。
 
ただし、この託宣はどの大王でも受けられたというものではありません。
古事記の中には、臣下の虚言を鵜呑みにし無実の罪で人を殺めてしまった大王が、神牀で眠りについても己の死の運命を夢に見ることなく、眠っている間に復讐で殺されてしまうというエピソードが出てきます。
 
そんなわけで、神に選ばれた王だけが夢で有意義なお告げを受けられるというイメージから、『花咲く…』の中でも、『特別な資質を持った王族だけが夢で神に会うことができる』という設定がひそかに盛り込まれていたりします。
 
【海石と泊瀬の温度差】   
海石の発言に対し、迷惑そうだったり無視したりと何かと微妙な反応をとっている泊瀬ですが、べつに海石自身のことを心底嫌っているわけではありません。
 
ただ思春期に入った男子として、泊瀬の資質をやたらと過大評価してきたり、その将来を過剰に期待して、一族や国の命運のような重いものを背負わせようとしてきたりする叔母に対して、ちょっとした反発心を抱いたり、うざったく思ったりしているのです。
 
現代で例えるなら『息子の教育に熱心な母親と、もう少し自由が欲しいと思っている息子』のような関係と思ってください。
 
 
 ※このページは津籠(つごもり) 睦月(むつき)によるオリジナル・ファンタジー小説花咲く夜に君の名を呼ぶ(古代ファンタジー小説)
  ストーリーや用語に関する豆知識やこぼれ話・制作秘話などを蛇足に解説したものです。
  解説の内容につきましては資料等を参考にしてはいますが、諸説あるものもございますし、
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ファンタジー小説解説へびさんのあんよ
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