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第1話:夢見の島の眠れる女神
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第10章 悪夢に蝕まれる島(4)

「“真の夢見の娘(わたし)”の役目はね、夢見の女神(レグナリア・レヴァリム)の元へあるもの(・・・・)を届けに行くこと。今この島に起きていることは全て、夢見の女神(レグナリア)の御力が不安定になっていることが原因なの。だからそれをどうにかしないことには、何度消してもまた新たな悪夢(コシュマァル)が生まれちゃうんだ」
 そのラウラの説明を裏付けるかのように、今も葬花砂漠のあちらこちらで悪夢(コシュマァル)が黒い泡を立ち上らせている。
女神(レグナリア)の元って言ったって……お前、夢見の女神(レグナリア・レヴァリム)がどこに眠っているのか知ってるのか?」
 フィグの疑問に、ラウラはしっかりと首を縦に振ってみせる。
「うん。教えてもらった。女神(レグナリア)はあそこにいるんだよ」
 言ってラウラが指さしたのは、島の中央にそびえ立つ“世界樹の切株(ユグドラシル・スタンプ)”だった。フィグは軽く目を見張る。
「……確かに、女神(レグナリア)が眠るにはふさわしい場所だな。だが、どうやって行くんだ?あの山は四方を断崖絶壁の谷に囲まれてるんだぞ。おまけに島は今こんな状況だ。たどり着くまでの間に悪夢(コシュマァル)に取り込まれでもしたら洒落にならないぞ」
「大丈夫。だって私は“夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)”だもん」
 ラウラは髪留めを外し、一瞬で銀の匙杖(シルヴァースプーンワンド)に変化させた。
「夢より紡ぎ出されよ!千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)より“魔法の絨毯”!」
 ラウラが杖を振ると、先端から七色の光が飛び出した。それは互いに絡まり合い、華麗な模様を織り成し、やがて七色の光を帯びた宙に浮く絨毯へと変貌を遂げた。
「夢追いの祭の時にも見たが……お前、夢雪無しで夢を紡げるようになったんだな。おまけに光の色も違う。それが“真の夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)”の力なのか?」
「……うん」
 ラウラは目を伏せ、それ以上を語らなかった。
「乗って、フィグ。とりあえず谷の近くまではこれで行こう」

 魔法の絨毯は二人を乗せ、悪夢(コシュマァル)の泡の届かぬ高さを飛んでいく。
 葬花砂漠を一気に越え、以前ラウラを花曇りの都へ送った時とは逆の進路をとり花歌の園へと差しかかった時、フィグは愕然と目を見開いた。
「何なんだ、これは !?」
 かつて風に揺れながら優しい歌を合唱していたはずの花たちは、今や悪夢(コシュマァル)により黒く変色し、歌とは違うモノを響かせていた。
 どこか機械じみた感情に乏しい声で囁かれるそれは、侮蔑や嘲笑、そして悪意に満ちた言葉の羅列だった。それが幾重にも重なり合い、騒音となって容赦なく耳に飛び込んでくる。
『キモイ』『ウザイ』
『オマエナンカ、イキテイル価値モナイ』
『キエロ』『シネバイイノニ』
 否応なしに耳に入り込み鼓膜を震わせるそれは、まるで形を持たない凶器のように心を打ちのめし、精神を冷たく切り刻んでいく。ただその場に立ってその“音”に囲まれているだけで、徐々に生きる気力を奪われていくようだった。
「何だ、これ。……頭がおかしくなりそうだ!」
 フィグは耳を塞ぎ、それらの“音”を振り払おうとするように必死に頭を振る。ラウラは今にも泣きそうな目で花たちを見つめた。
「……そうなんだ。これが“悪夢”。そしてきっと、現実でもあるんだね」
「どういうことだ?」
 フィグの問いに、ラウラは振り向かないまま答える。その声は悲しみに震えていた。
「これは、私たちが“向こう側”と呼ぶ場所にいる人たちが見ている悪夢。そして、現実。“悪夢(コシュマァル)”はね、“向こう側”の人たちの抱いている恐怖心や嫌悪感や不信感や……そういう、あらゆる(マイナス)の感情が形になったもの。形の無いそれが、女神様の“夢”を通してこの島に伝わって来て、具現化したものなんだよ」


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このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話夢見の島の眠れる女神の本文ページです。
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