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第1話:夢見の島の眠れる女神
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第8章 悪夢の予兆(4)

 夏風岬の嵐は深夜になっても止まずにいた。
 フィグは窓辺にもたれ、ぼんやりと黒天に舞い飛ぶ嵐の精霊鳥(サンダーバード)の姿を眺めていた。昼間のラウラとのことが神経を昂ぶらせ、眠れる気分ではなかったのだ。
 その時、フィグはふと異変に気づいた。時折雷光により青白く染め上げられる大地に、亡霊のように白くひらひらとうごめくものが見える。目を凝らしてその正体に気づいた瞬間、フィグは戦慄した。
 雨除けの白い外套(コート)に身を包んだ幾人ものシスターたちが、ラウラの家の方へと歩いていく。それは八年前に見たのと全く同じ光景だった。
「なぜだ?なぜ今更また、小女神宮(レグナスコラ)からの使者が来る!?」

 突然の訪問者に戸惑ったのはフラウラ家の人間たちも同じだった。
「あの……こんな夜分遅くに、一体何のご用件でしょう」
 不安げに問うラウラの父にシスターの一人が無表情に告げる。
「我々は小女神(レグナース)ラウラ・フラウラ様をお迎えに参りました」
「は?ラウラが祭のお手伝いに上がるのは、明日のお昼前のはずでは……」
「手伝いとしてではありません。我々はラウラ・フラウラ様を“夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)”としてお迎えに上がったのです」
 カタン、と奥の部屋につながるドアが開き、ネグリジェ姿のラウラが強張った顔で現れた。
「それ、どういうこと?夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)はメイシャちゃんに決まったじゃない」
「本日の夕刻、小女神(レグナース)(ローブ)がアメイシャ・アメシスの資格喪失を告げました。よって、選考会で次点をとられたあなたが、新たな夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)に選定されたのです」
 今までとは違う、まるで女神(レグナリア)その人に対するような恭しい態度で、シスターたちはラウラの前に膝まづく。
「資格喪失?小女神(レグナース)(ローブ)?それって……」
 言いかけ、ラウラはハッと気づいた。
 小女神(レグナース)が必ず身につけさせられる純白の“小女神(レグナース)(ローブ)”には、一つの重要な機能が付与されている。それは小女神(レグナース)肉体(からだ)の変化に反応してその色を変化させるというものだ。たった一つのその機能が知らせるものは……。
 ラウラは「まさか」という顔でシスターたちを見る。シスターたちはうなずいて告げた。
「アメイシャ・アメシスは初潮を迎え、小女神(レグナース)ではなくなりました。よって、夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)になることはできません」

「我々は、間違っておったのかのう?」
 洋燈(ランプ)の明かりの揺れる小女神宮(レグナスコラ)の一室で、審査官の一人が重苦しい声で訊いた。
「そもそも我々が選ぼうとしていたこと自体が誤りだったのですよ。『真の夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)女神(レグナリア)の御手により選ばれる』――古よりの伝承の本当の意味がやっと分かったような気がします。夢見の娘に選ばれた小女神(レグナース)が祭の前に資格を失うなど、前代未聞のこと。しかも、不吉な兆の多く現れているこの時期に、です。これはとても偶然とは思えません」
「左様。これは偶然などではない。女神(レグナリア)の御意思と見なすべきだ。我々の選んだ候補を女神はお認めにならなかった。それゆえ、このような形で御意思を示されたのであろう」
「これは我々の驕りが招いた結果じゃ。己の価値観を絶対と信じ、いつの間にか目をくもらせてしまっていたのじゃ。島の民たちの方がよほど確かな目を持っていたということよ」
「しかし、こうして女神の御手による介入があった以上、最早時が来るのは確実ということですな」
「ああ。備えねばならぬ。島は荒れるぞ。……悪夢の宴の始まりだ」


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このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話夢見の島の眠れる女神の本文ページです。
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