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ファンタジー小説|夢の降る島

第1話:夢見の島の眠れる女神
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第1章:夢の降る島(4)

 影追いの森をフィグが入ってきたのとは逆方向へと抜けると、そこは花歌の園≠セった。チューリップによく似た形の花が咲き乱れるそこでは、吹く風の音が他所とは違っている。何かを囁くような音で吹くその風が花弁を揺らすと、花たちは一斉に歌を歌い出す。それは囁くように小さな、しかし一つ一つが重なり合って花園中に響き渡る、ひどく耳に心地良い合唱だった。
「この歌、小さい頃の思い出を歌った歌だね。今日の歌伝風≠ヘどこの国から吹いてきたのかな」
 フィグの背に額を預け、ラウラが囁く。
「記憶の森≠ナ聴いた覚えがある。確か日本あたりの歌で『思い出のアルバム』とかいう名前の歌だったような気がするが」
「この歌の『イチネンセイ』ってさ、この島で言う小女神宮の一年目と同じことだよね?フィグは覚えてる?私が小女神宮に上がる前のこと」
「……忘れるものか」
 フィグの呟きはラウラの耳には届かなかった。
 花歌の園を抜けると、鮮やかな色彩を保ったまま風化した花びらたちにより生み出された葬花砂漠≠ェ現れる。この砂漠のちょうど中央に位置するオアシスが、この島の中枢であり、ラウラの暮らす花曇りの都≠セ。都は常に淡い黄色や薄紅色をした花雲≠ノ覆われ、そこからはいつも雲と同じ色をした花びらが降っている。葬花砂漠の砂は全て、この都の花びらが風に乗り外へ運ばれてできたものだ。
「じゃあ、ここで」
 都の外で木馬を降り、ラウラはフィグに手を振る。フィグは都の中へは一緒に行けない。都に入ることを許されているのは小女神宮の関係者と、特別に許可をもらった者だけなのだ。
 都へ向かい走り出す小さな背中を、フィグは見えなくなるまでその場で見送った。ラウラは一度も振り返らなかった。


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このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話夢見の島の眠れる女神の本文ページです。
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