第１話：夢見の島の眠れる女神
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- 第４章：
夢 紡ぐ小女神 （１） -
「夢より紡ぎ出されよ！長靴をはいた１０１匹の猫！」
鋭いかけ声とともに、ラウラは泉の中に浸していた匙杖 の先端を勢いよく振り上げた。泉の水が飛び散り、飛沫が白銀の光を発する。それは瞬く間に手のひらサイズの長靴をはいた猫の姿となり、ラウラの周りをうじゃうじゃと二足歩行で歩き出した。
「おぉー……。なかなかやるじゃん。スゴイスゴイ」
感嘆の声とともに惜しみない拍手を送ってくるのは短髪の小女神 。ラウラのルームメイトにして親友、キルシェ・キルクである。
ここは小女神宮 の中庭にある“夢生みの泉”。世界樹の切株 に積もる雪が地下水脈を通り泉となって湧き出すこの水には夢粒子 が豊富に含まれている。
「でも１０１匹はちょっと多過ぎ。見てて気持ち悪いから消してくれない？」
「……はっきり言うなぁ、もう」
ラウラはため息とともに意識の集中を解いた。途端、あれほど群がっていた小さな猫たちが幻のように消え去る。
「まさかあんた、ソレで夢見の娘 選考会に出ようってわけじゃないよね？」
「……ダメかな」
「ダメでしょう。相手はあのアメイシャとアプリと、ついでにこの私なんだよ？」
「うーん……。まあ、そうだよね。でも、そういうキルシェちゃんには何か良い策でもあるの？」
「策？無いよ、そんなの。だって私、優勝する気ないし」
「えぇーっ!?何で!?どうして!?キルシェちゃんは夢見の娘になりたくないの!?」
「そりゃなりたいけどさ。現実問題無理でしょ。アメイシャが相手じゃレベルが違い過ぎるもの」
キルシェは自嘲するように笑う。
――夢見の娘 。それは一年に一度島で行われる“夢追いの祭”の主役であり、基本的に小女神 の最年長者たちの中から選ばれる。祭の当日には極上の衣裳を身にまととって島中をパレードし、周りからはまるで女神そのもののように扱われる。小女神に生まれた者であれば誰もが夢見る名誉ある役目なのだ。
「確かにメイシャちゃんはすごいけど、勝敗を決めるのは選考会当日の夢晶体 の出来でしょう？だったら私たちにだってチャンスはあるよ！審査官をアッと言わせる発想 で逆転を狙えばいいんだもん」
きらきらした目で力説するラウラをじっと見つめた後、キルシェは『あんたには負けるわ』とでも言いたげに破顔した。
「まあ、確かにそうだわ。どんなに可能性が低くても最初から諦めるもんじゃないよね。あんたのそのいつも前向きな所、本当にいいわ」
「そうだよ！『どうせダメ』なんて思っちゃダメだよ。少しでも諦めたらやる気 が下がって夢晶体 の質 も落ちちゃうもん。だから、ここぞという勝負の時には成功した自分の姿を思い描いてやる気をみなぎらせておくの！」
「ありえない未来を思い描いてその夢に溺れるのは時間の無駄だと思うが？」
盛り上がりかけた二人の気持ちに水を差すように冷たい声が響く。振り向くとアメイシャ・アメシスが紫の瞳でじっとこちらを見ていた。
「何、あんた。ケンカ売りに来たわけ？」
立ち上がりにらみつけるキルシェにかまわず、アメイシャは無言で泉のそばに歩み寄り、左耳のイヤリングをはずした。先端に紫水晶 のついたそのイヤリングは、一瞬で銀の匙杖 へと形を変える。
「これから私がここで練習をする。退いてくれないか？」
「何それ！後から来ておいて何様のつもり？夢生みの泉はあんた一人のものじゃないんだからね！」
「そう。私一人のものではないし、君たちだけのものでもない。夢見の娘 候補者の公平性を保つために、ここでの練習時間は一人一日３０分と決められていたはずだが？」
「何が公平よ！知ってるんだからね！あんたが故郷から瓶詰めの夢雪 を山ほど送ってもらってるの！」
「それが何か？私が言ったのはあくまでこの泉の使用時間のことだ。文句があるなら君たちも夢雪を集めて来ればいいではないか」
このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーＷｅｂ小説「夢の降る島」第１話
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