第1話:夢見の島の眠れる女神
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- 第2章:君の生まれた日の夢(1)
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フィグが夏風岬の灯台に戻ると、母親は既に夕食の支度を始めていた。
「夢雪 を集めるだけにしては遅かったのね。どこか寄り道してたの?」
「ああ。まあ……あちこち、な」
「あんた、まさかとは思うけど、未だにラウラ様 と会ってるわけじゃないでしょうね」
フィグはぎくりとして母親の背中を見つめる。
「分かってるでしょうけどね、いくら幼なじみだからってレグナースとみだりに会ったりしちゃダメよ。レグナースは小女神宮 を卒業するまでは恋愛御法度なんですからね。万一のことにでもなったらフラウラさんとこの奥さんと旦那さんに顔向けできなくなっちゃうわ」
夏風岬にはフィグの家族であるフィーガ家を含め二世帯しか住んでいない。そのもう一世帯がラウラの生れたフラウラ家だった。フィグとラウラは、ラウラが六才になり小女神宮 に上がるまでお互いだけを唯一の遊び相手に過ごしてきた。
「……分かってるよ。小女神宮 を出てただの女になるまでは手を触れちゃダメだって言うんだろ?もう何回聞かされてると思ってるんだ、その話」
「『ただの女』?失礼ね!大人の女性と言いなさい!だいたい母親に向かってその態度は何なの?母さんだって昔はレグナースだったんですからね!」
「島の女は皆そうだろ。男に生れなきゃ皆レグナースなんだから」
この島には“女の子”が存在しない。否、正確に言うなら“女の子”という概念が存在しない。この島に生れた男でない 子どもは、初潮を迎え女 となるまでは皆、女神の代理人である“小女神 ”とみなされ、都の小女神宮 に集められ、シスターたちの手により大切に養育される。
それまで他の子どもたちと接する機会の無かったフィグがそれを知ったのは、ラウラが六才になった時のことだった。当時、まだ何も理解できず、小女神宮 からの迎えにラウラが得体の知れない集団に連れて行かれると思い込んだフィグは、駆け落ちまがいのことをしてラウラを岬から連れ出した。フィグが七才の時のことである。
幼い逃亡劇は結局失敗に終わったが、おてんばで好奇心旺盛なラウラはすぐに都を抜け出す方法を覚え、こっそりフィグに会いに来るようになった。以来、二人の逢瀬は今日まで続いている。自室に戻ると、机の上にはいつの間にか水色の紙ヒコーキが届いていた。ラウラが岬を出た後に交流を持つようになった“
黄金 紅葉 の郷 ”の同年代の友人の手紙だ。
『フィグ・フィーガへ
明日、夢鉱石 を採りに行こう。リモンとカリュオンも一緒だ。
時告鳥 が十鳴く頃に、鉱石谷 の入口で待ってる。
ビルネ・ビネガー』
返事の紙ヒコーキを空へ飛ばし、フィグはふと思いついたようにもう一枚便せんを取り出した。
『ラウラへ。
今日お前が紡ぎ出した夢晶体 は、どれも原典とはかけ離れた出来だったぞ。もう少し記憶の森で勉強してイメージ修行を積んだ方がいいんじゃないのか?
夢見の娘 選考会までもうそんなに日がないんだろう?
フィグ』
傾き始めた太陽へ向け、紙ヒコーキを勢いよく飛ばす。紙ヒコーキは空に吸い込まれ、あっという間に見えなくなった。
このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話の本文ページです。
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【おまけ】蛇足な解説コラムレグナースの元ネタは、ネパールの少女神クマリ