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第1話:夢見の島の眠れる女神
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第11章 悪夢の卵(4)

 後から後から溢れ出す涙を手で拭いながら、ラウラはひとり、道を行く。
 雲上の花園“夢雪花の園(レネージュ・ブルーム・ガーデン)”の先には、白く輝く“氷樹の森”が続く。クリスタルガラスで造られたクリスマス・ツリーのようなその森を抜けると、白銀の夢雪(レネジュム)に覆われた世界樹の切株(ユグドラシル・スタンプ)の頂が姿を現す。
 頂へと向かう急勾配の斜面には、いつの間にかラウラを導くように一筋の道が刻まれていた。山頂へ向かいくねくねと蛇行するその道は、まるでそこだけ春になったかのように雪が融け、若草が萌え出し、ところどころにタンポポが可憐な花を咲かせている。
 ラウラはその道を銀の匙杖(シルヴァースプーンワンド)をつきながら登る。雪に覆われていない道とは言え、ただでさえ急峻な山道だ。だが、ラウラは疲れを感じなかった。それどころか、それまでに溜まっていたはずの疲れさえもが消えていく。緑の道を一歩踏みしめるたびに、不思議なぬくもりがじわじわと足元から登ってくる。まるで足の裏を通して山そのものから癒やしの力をもらっているようだった。
「……夢見の女神(レグナリア・レヴァリム)様。今も私を見守って、助けてくれてるんだね。待ってて。今行くから」
 ラウラは小さく呟くと、歩く速度を速めた。藍色だった夜空はやがて漆黒に変わり、頂上へ辿り着く頃には東の方からゆっくりと朝の光が差し込み始めていた。
「着いた。ここが……夢見(レヴァリム)島の中枢……」
 頂に立ち、ラウラは世界樹の切株(ユグドラシル・スタンプ)内部(・・)を見下ろす。
 普通の火山であれば火口があるべきその場所には、まるで何かで抉られたかのように深く巨大な縦穴が開いていた。世界樹の切株(ユグドラシル・スタンプ)と呼ばれるこの岩山は、あたかも樹木の内部が腐りとなったかのごとく内部が空洞となっていたのだ。
 その深い穴の底には、内側からほのかな光を放つエメラルドグリーンの湖がある。夢見(レヴァリム)島の中枢“母なる眠りの羊水(うみ)”だ。
 温水の湖であるらしく、水面からは淡い水煙が立ち昇っていた。そしてその湖の中心に、水に沈む花のようにゆるやかに揺らめくものがある。よく目を凝らせばそれが、ソメイヨシノの花のような色のドレスに身を包んだ一人の女性が、胸に大きな黒い卵のようなものを抱き、水の中で胎児のように身を丸めているのだということが分かった。
「……来たよ。夢見の女神(レグナリア・レヴァリム)様」
 ラウラはその人影に向け、囁くように呼びかけた。
 すると、それに応えるかのようにラウラの目の前に虹色の石の板が現れた。世界樹の切株(ユグドラシル・スタンプ)を登る時に現れた階段と同じ、蛋白石(オパール)でできた石の板だ。ラウラが足を乗せると、それはまるでエスカレーターが下りていくように、山の内側の岩壁に沿って螺旋状に下降していった。ラウラは緊張した面持ちで縦穴の底に降り立ち、湖のほとりへと向かっていく。
夢見の女神(レグナリア・レヴァリム)様。夢見の娘(フィーユ・レヴァリム)ラウラ・フラウラが、あなたの夢に導かれて参りました。どうか御姿を現してください」
 湖へ向け小女神宮(レグナスコラ)で教わった通りの口上を述べると、それに応えるかのように湖水の中から声が響いた。
「よく来たわね、ラウラ・フラウラ。待っていたわ。……でも、今さらそんな風に畏まらなくていいのよ」
 それは“女神”というイメージにはあまりそぐわない、ごくごく普通の明るい少女の声のように聞こえた。
 声がすると同時に水面が盛り上がり、水底から淡い桜色のドレスをまとった人物が浮かび上がってくる。湖上に全身を現したその人は、ラウラのよく知る人物の面影をその顔に宿していた。
 だが、その髪はかかとを遥かに超すほどに長く、その背丈はラウラの知る人物の胸の高さまでしかない。年格好はちょうどラウラと同じか、それより一、二才幼いように見えた。
「あなたが……夢見の女神(レグナリア・レヴァリム)様……?」


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このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話夢見の島の眠れる女神の本文ページです。
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