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第1話:夢見の島の眠れる女神
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第12章 夢路の果て(3)

 無力感にうなだれるフィグに、フレアがふと思い出したように声を掛けた。
「それで、フィグ・フィーガ。あなたの覚悟は決まったの?」
「覚悟?」
「もうッ!忘れちゃったの?私の分身があなたに訊いたでしょ?夢を追う覚悟はあるかって」
 きょとんとしたフィグの顔に、フレアは「信じられない」とでも言いたげに腰に手を当て、ぷりぷりと怒り出す。
「こんな時に何を言ってるんだ?今、そんなことを考える心の余裕があるはずないだろ?」
「余裕なんて有ろうが無かろうが、チャンスは今しかないのよ。この島から“向こう側”へ渡れるのは、夢現剥離が起きている今しかないんだから!」
 その発言に、フィグとラウラはぎょっとしてフレアに注目する。
「渡れるのか !? 向こう側へ !? だって、今まで成功した人間は一人もいないのに……」
「それはそうよ。だって今までこの島を出たいと夢見た人間の中で、運良く(・・・)女神の代替わりに巡り合わせた人間なんて一人もいなかったんだもの。夢見る力も実力も充分に持ってるのに、唯一つ時機(タイミング)が合わないという不運のせいで夢破れていく人を見るのは、私も辛かったわ。だからあなたには叶えて欲しいの。『この島から自力で出ることは絶対にできない』という常識を、打ち破って欲しいのよ」
 フィグは戸惑い、救いを求めるようにラウラを振り返った。
「何を迷ってるの、フィグ。叶えられないと思ってた夢が叶うんだよ?迷わず進めばいいじゃない」
「だけど俺は、こんな形で夢を叶えたかったわけじゃない。向こう側へ行く時はお前も一緒にって、ずっと思ってきたのに……」
「私はもう道を選んだんだよ。フィグとは一緒にいられない道を。だから、今度はフィグが自分の道を選ぶ番。フィグの人生はこれからも続いていくんだから、どうしたいのか自分で決めなくちゃ」
「……お前のいない道を、一人で歩めって言うのか?」
「そうだよ。これは私が女神じゃなくても、ただの人間でも普通に起こることだよ。お互いがそれぞれの夢を追っていれば、その道が分かたれてしまうことはある。一緒にいられなくなることはある。特別なことなんかじゃない、当たり前のことなんだよ」
 だがフィグは答えを出すことも、言葉を発することすらもできず、ただ捨てられた仔犬のような目でラウラを見つめ、立ち尽くす。その表情にラウラは苦笑し、安心させるように優しい声で告げた。
「……大丈夫だよ。私たちは、もう会えなくなるわけじゃない。離れ離れになっても、繋がっているものがあるから。フィグが信じて、本気で会いに来てくれるなら、私たちはまた出会うことができる。だから、フィグはフィグの夢見た道を行って」
「本当に、また会えるのか?俺が、向こう側に渡っても……?」
「うん。会えるよ。だから、会いに来て。私、ずっと待ってるから」
 フィグはラウラの顔をじっと見つめた。物心ついた時からずっと見つめてきたその顔は、嘘をついている時の顔ではなかった。
 しばし無言でラウラの言葉を反芻すると、フィグは強く拳を握りしめ、フレアを振り返った。
「教えてくれ、フレア・フレーズ。どうすれば向こう側へ渡ることができる?」
 フレアはその問いに、微笑んで天を指さす。そこには未だ剥がれ落ち続ける空があった。
「あの“穴”よ。この島は夢だけでできているわけでも、現実だけでできているわけでもない、その両者が混じり合う場所。2つの世界をつなぐ場所。夢現剥離とは、この島を構成するその“夢”と“現実”の2つの要素が分離しようとしている状態を言うの。あの空の穴も、そうして夢と現実が引き裂かれることによりできたもの。すなわち、あの“穴”の向こうにあるのが現実世界――私たちが“向こう側”と呼ぶ場所よ。あそこへ飛び込めば向こう側へ渡れるわ」
「何だと……っ !?」
 フィグは目を剥いて空を仰いだ。穴は既にかなりの大きさにまで拡がっているが、それはあまりにも高い場所にあり、地上からどれほどの距離があるのか見当もつかない。
 フィグの心の内を察してか、フレアは力づけるように微笑みかける。
「大丈夫よ。夢見の女神(レグナリア・レヴァリム)の継承が完了すれば、この山のカルデラ――つまりここ(・・)から、火山が噴火するみたいに大量の夢雪(レネジュム)が噴き出すの。その勢いに乗せて、ある程度の高さまでは運んであげられるわ。そこから先は、あなたの実力次第だけどね。……一生に一度のチャンスに、賭けてみる気はある?」
 フレアの問いに、フィグは銀の匙杖(シルヴァースプーンワンド)を握りしめ、強くうなずいた。


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このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話夢見の島の眠れる女神の本文ページです。
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