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第1話:夢見の島の眠れる女神
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第12章 夢路の果て(2)

「……ちょっと待て。何言ってるんだ、あんた……。創られた?仕組み(システム)?それじゃ、まるでこの島が夢見の女神(レグナリア・レヴァリム)を生み出すためだけに存在しているみたいじゃないか。どういうことなんだ?この島は、一体何なんだ?」
 フィグは混乱を抑えようとするかのように頭を抱え込んでつぶやく。その様子にラウラが哀しく笑う。
「混乱するのも無理ないよ。私も、最初にこの島の真実を知った時はそんな感じだったもの。……この島は、女神(レグナリア)のために創られたもの。女神のために存在する、夢と現実との間に創られた箱庭なんだって。でもね、今はもう、女神のためだけ(・・)のものだなんて私は思わないよ。この島にはもう、たくさんの人間が住んでいて、それぞれの人生を生きているんだもの。私は女神になっても、そのことを忘れるつもりはないよ。だから、大丈夫だよ」
 その言葉に、フィグはハッと表情を変え、改めてラウラの顔を見つめる。
「そうだ、ラウラ……!お前、夢見の女神(レグナリア・レヴァリム)になったってどういうことだ !? もうすぐ俺の前からいなくなるって……お前は、これからどうなる(・・・・)って言うんだ !?」
 ラウラは目を逸らすこともうつむくこともなく、真っ直ぐにフィグを見つめていた。わずかの時間も惜しむように。その姿を眼に灼き付けておこうとでもいうように。
夢見の女神(レグナリア・レヴァリム)の役目は、皆の夢が悪夢(コシュマァル)に支配さることのないように、夢見の力で浄化すること。だから、その魂は夢の中を漂い続けるんだよ。……役目が終わる、その日まで。そして、魂を失って空っぽになる肉体(からだ)は、この島と同化して世界の一部になるんだって」
「何だと……?」
 フィグは呆然としてラウラを、そして徐々に透明度を増すフレアを見る。フレアはそれが真実だと示すように頷いて見せた。
「ええ。あなた達の見ている私のこの姿も、夢の中を漂うフレア・フレーズの魂が紡いだ夢晶体(まぼろし)に過ぎないわ」
 フィグは目を見開き、青ざめた顔でふらふらとラウラに近づいていく。
「そんなことってあるかよ !? お前はそれでいいのか !? 一生誰かの夢の中をさまよって、身体さえ失くして、そんな、幽霊みたいな生涯……。なぜ他人の夢を守るためにそんな犠牲を払わなければならないんだ !? それはお前の人生と引きかえにするほど価値のあるものなのかよ !?」
 フィグはラウラの肩につかみかからんばかりの形相で問いつめる。だがラウラは表情を変えることもなく、ただ静かに首を縦に振った。
「少なくとも私は、価値のあるものだって信じてるよ。夢って、人間の意識の深いところと繋がっているから。人によっては“無くても問題の無いもの”くらいに思われてるかも知れないけど、夢って、辛いばかりの現実の世界を忘れられる大切な世界だと思う。現実の中で打ちのめされて『もう立ち直れない』くらいに絶望しても、その夜に、もし優しい夢が訪れて心を慰めてくれたなら、翌朝には『また頑張ってみようか』って気になれるかも知れない。楽しい夢や優しい夢は、きっと人生を救ってくれるし、世界を優しくしてくれるって、私は信じてる」
 ラウラの顔にこれから待ち受ける運命への悲嘆など欠片も無かった。その瞳には静かで揺るぎない決意の色だけが宿っていた。
「ねぇ、フィグ。前に私、話したよね?いつか、私にしか紡げない夢で誰かを幸せにしたいって。その目標(ゆめ)は、今も変わってないよ。私は、私の紡ぐ夢で皆の世界を守りたい。たとえ夜に見る夢の記憶のように皆から忘れられて、誰にも私のしていることを気づいてもらえなくても。人間としての人生を喪ってしまうことになっても。それでも私はこの道を進むって、決めたんだ。ただ、一つ……。この目標(ゆめ)を選んだことで、私とフィグの道が分かたれてしまうことだけが……すごく、哀しいけど……」
 静か過ぎるラウラの瞳に、フィグは悟った。もう何を言ってもラウラの決意を変えることはできないのだと。フレアの分身(シスター・フレーズ)の言った通り、フィグにできるのはもうその決意を受け入れ、見守ることだけだった。


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このページは津籠 睦月による児童文学風オリジナルファンタジーWeb小説「夢の降る島」第1話夢見の島の眠れる女神の本文ページです。
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