灯台の二階にあるその部屋には、一年を
風が運んでくる海の
『昼の白い月が〝世界樹の切株〟の左肩にかかる
影追いの森の奥、
フィグは目を開け、机に向かう。
でき上がったのは、先の
「
言葉と同時に右手から放たれた白い紙ヒコーキは、すい、と風に乗り、まるで予め用意された見えないレールの上を
見えなくなるまで見送って、フィグは階段を下りる。
「あら、フィグ。
「ああ。ちょっと苺ロウソクの野まで夢雪を集めに行ってくる」
母親の声にそう答え、フィグはイスに引っかけてあったカバンと壁に立てかけてあったデッキブラシを手に取り灯台を出た。
暑いほどに照りつけていた日差しは道を行くにつれ
森に入ろうとしたフィグの頭に、ふいにこつん、と軽いものがぶつかって落ちた。それはどこか丸みを
広げた紙には、やはりどこか丸みを
『フィグへ。
わかった!すぐ行くね。今度は負けないから!
ラウラより』
フィグは軽くため息をつき、たたんだその手紙をポケットにしまった。
「あいかわらず下手クソな字……。こんなんで本当に〝
頭を
そこは昼とは思えぬ暗闇の世界だった。茂り合い絡み合う木々の枝が空を完全に
たくさんの光源に照らされて、フィグの足下にはいくつもの影ができては消える。
森を抜けると、そこは一面に
「フィグってばおっそーい!都から来た私の方が早く
フィグはムッとして言い返す。
「俺はちゃんと最短ルートを通ってきた。お前が早過ぎなんだ。どうせまた俺を
「えっ!?
「
そのまま
「あーっ!」
ラウラの
「もう〝
言いながらラウラは前髪をとめていた
これからその巨大なスプーンで何かをすくおうとでもするように杖を
「ルールは前と同じでいいよね?お題はどうする?」
フィグもカバンを地に置き、デッキブラシを
「じゃあ今回は『世界の
山から飛んできた船型の雲が見る間に二人の頭上を
「じゃあ、しりとり
次々と
「〝夢より
瞬間、白銀の光が
「さすがフィグ!すごくリアルな
この島には、女神の夢見の力が溶け込んだ目には見えぬ細かな粒〝
「感心してる場合か。次はお前の番だぞ」
「そうだった。んー……。フェンリルか……。ル、ル……。よし!決めた!」
ラウラは地に降り
「夢より紡ぎ出されよ!
先ほどと同じように、杖の先で光が
現れたのは、両翼の長さが十五メートルはあろうかという巨鳥。象でも持ち上げられそうな太い
「お前……っ、なんだあの鳥の顔はっ!何で象をも
「えー?だってカワイイ方がいいじゃない。
「……何のための練習だと思ってるんだ、全く。まあいい。ちゃっちゃと次行くぞ。夢より紡ぎ出されよ!『妖精の書』より〝ウンディーネ〟」
「ウンディーネ……。ネ、ネ……。夢より紡ぎ出されよ!『画図百鬼夜行』より〝猫また〟!」
「じゃあ、『
フィグが猫またが完全に紡ぎ出されるより早く言葉を
「う!?えっと……えっと……夢より紡ぎ出されよ、ウンディーネ!」
ラウラの出現させたどことなく
「そうだった……。ウンディーネはもう出ちゃってたんだっけ……」
「ばーか。こっちにつられてペースを崩すからそういうことになるんだ。今回で何敗目だ?ラウラ」
「うー……っ、次は負けないもん!もう一回勝負しようよ!」
「……いや、今日はもう無理そうだぞ」
フィグはそう言って空を
「えぇ!?まだ一時間も
「俺に文句を言われても何もできんが、確かに早いな。昔は一日中降っていたこともあったのに……」
フィグは地に積もっていた雪をデッキブラシで
フィグは小瓶の
「夢より紡ぎ出されよ。
言いながらデッキブラシから手を
「花曇りの都まで送る。乗れよ」
「うん。ありがとう。……ゆっくりでいいからね」
二人を乗せた木馬は音もなく宙に浮き上がり、ラウラの希望通りゆっくりと走り出した。
影追いの森をフィグが入ってきたのとは逆方向へと抜けると、そこは〝
「この歌、小さい頃の思い出を歌った歌だね。今日の〝
フィグの背に
「〝
「この歌の『イチネンセイ』ってさ、この島で言う小女神宮の一年目と同じことだよね?フィグは覚えてる?私が小女神宮に上がる前のこと」
「……忘れるものか」
フィグの
花歌の園を抜けると、
「じゃあ、ここで」
都の外で木馬を降り、ラウラはフィグに手を
都へ向かい走り出す小さな背中を、フィグは見えなくなるまでその場で見送った。ラウラは一度も