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夢見の島の眠れる女神
   序 忘れられた創世神話
 
 それは途方もない歴史の果てに、語り継ぐ者も途絶えてしまった遠い過去の出来事。
世界の創り手が未だ人類と共に暮らしていた時代の、忘れられた最後の記録だ。

「もう、行ってしまわれるのですか?」
 粗末な皮衣に身を包んだ少女が問う。彼≠ヘ振り向き、頷いた。
「私の正体が露見してしまった以上、もうここにはいられない。君も見ただろう?私が何者かを知った途端、誰もが手前勝手な望みを押しつけだした。無論、それを責めるつもりはない。人類とはそういうものだと何より私自身が知っているからな。だが、偶然に出会ったということを理由にこの集落の人間だけを特別扱いすることはできない。願いを叶えてやれないと知りながら彼らと共に在り続けるのは私にも辛いことなのだよ。もう、この先こうして人間と交わることもないだろう。さらばだ」
「お待ち下さい!」
 少女は必死に呼びとめた。
「この先もう人類と関わるつもりが無いと仰るなら、どうかその前に一つだけ、願いをお聞き届け下さい!」
 その言葉に彼≠フ表情が険しくなる。
「君も私に望むのか。私の言葉を聞いたにも関わらず。一体何を望むと言うのだ?」
「希望≠」
 少女は彼≠フ厳しい目にも臆することなく、はっきりと答えた。
「あなたのお創りになったこの世界は、生きる者にとってあまりに苛酷です。心無き獣ならともかく、感情も知性も与えられた我々にはとても耐えられません。どうか、せめて我らに希望≠与えて下さい。この世を生き抜く支えとなる一欠片の希望を……」
 彼≠ヘしばし沈黙した。噛みしめるように少女の願いを頭の中で巡らせた後、彼≠ヘ静かに告げた。
「では、お前たちに世界≠もう一つ贈ろう」
 

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