春になる。
空気の色は変わらないのに
そこかしこで花が咲く。
世界が、幸せで満たされてくる。
花は何故
あたたかい日差しに誤魔化されがちだけど、
四月の風はわりとつめたい。
つめたくて、ぬるい。
柔らかなその風がうなじを撫でて、
青空を背に桜の
何もかもどうでも良くなり、
心を宙に解き放ちたくなる、春の真ん中、桜の終わり。
いつの間にか、土手に花が咲いていた。
まるで振袖の柄のように、色とりどりに隙間無く。
今日まで気がつかなかった。
天高く、日は白くかげる。
花ぐもり。
川は歪んだ古鏡のように、
いびつに、だが色鮮やかに川辺の桜並木を映す。
また、この季節がめぐってくる。
あたたかく、やわらかく、心を溶かし包む
ぬるま湯のような季節が。