ひとを愛するって、どんなことなのだろう。
そう思いながら夜の家路をたどっていた。
駅前の背の高い建物の向こうには、
ちらちらとピーチ・ネクター色の月が見え隠れしていた。
そのとき、ふと思った。
ひとを愛するということは、
そのひとを失ったら哀しくなること、
そのひとが他の誰かのものになってしまうと
泣けてしまうことなのかもしれない。
だったら、それは自分にとって、
月を失うことに似ている、と。
もしもあの月が、自分以外の誰かの手に堕ちて、
二度と夜空に昇らなくなったら、
自分はきっと泣くだろう。
月は幼い日の自分の唯一の泣き場所だった。
父のようであり、母のようであり、
そして涙、だったから。