なんでもないような一日が、
どうしてこんなにも記憶に残っているのだろう。
ほんの数年前の夏休みのことは思い出せないのに、
あの頃は、何もかもが長く、大きく、暑かった。
朝の空気や、じりじりと肌を灼く日射しさえ
覚えている気がする。
あの頃はまだ、あの家に住んでいた。
家の中を吹き通る午前の風は、
なぜだか今の家のクーラーよりも
涼しかったように思える。
家の戸という戸は開け放たれ、
庭に繁った草花が夏の強い光にまぶしかった。
何もない一日の連なりだったはずなのに、
ぼーっとしているうちに過ぎてしまったという記憶はない。
ラジオ体操。土間のお掃除。プール。夏休みの友。
今思えば何でもない、
べつに面白味も感じないもの。
それが、どうして記憶の中で
こんなにもきらきらしているんだろう。
愛しい。
小学校の夏休みの記憶は、
まるで真夏の真っ白な日射しそのままの、
強くきらめく記憶だ。
どうしたらこんな夏をもう一度、
この手に取り戻せるのか、
残念ながら今の自分には分からない。