幼い頃、橋の欄干(らんかん)にもたれかかって 川の流れを見ているのが好きだった。
しばらくの間 見つめていると 動いているのが 川の水なのか、 それとも自分の立つ橋の方なのか 分からなくなる瞬間がある
その錯覚(さっかく)を利用して、 自分が眺(なが)めているものが ただの川の流れでなく 船のスクリューから吐き出される 水流なのだと想像すれば、 自分の立っている場所は ただの橋の上ではなく どこかを旅する船の後部デッキになる。
そうして ほんの束(つか)の間(ま)ここではないどこかを 旅している気分に浸(ひた)れば ありふれた景色も 非日常な旅の風景に変わる気がして