秋の匂いは、キンモクセイの匂い。
風に乗って遠くから届く、
甘く、頭に残る匂い。
ざぁっと枯れ葉が散って、
ばらばらと降ってきた。
視界を埋め尽くすくらいに。
舞い散る
秋の景色に閉じ込められて、
あまりにも幸せな刹那だった。
これが、秋。
薄暮の中、
淡くライトアップされた東京タワーは
哀しいほどに美しく、ぽつんとそびえ立っていた。
今日は、月が赤い。
もう、秋なのだった。
淡く星の浮かぶ静かな夜。
鈴をふるわせたような虫の
かなしくなった。
こんなに静かで美しい夜の外で、
世の中には恐ろしいことばかり起きているから。