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和風ファンタジー小説
花咲く夜に君の名を呼ぶ

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第三章 岐路(きろ)に立つもの(3)

 男神は不敵な笑みを浮かべ、片脚を大きく振り上げた。その脚をそのまま、地を揺るがすような勢いで地面に突き立てる。呆気(あっけ)にとられる花夜をよそに、男神は片脚を膝下近くまで地にめり込ませたまま叫んだ。
「クナ!」
 その声は風となり、俺達の身に()(こう)からぶつかってくる。踏ん張っても耐え切れず、花夜はその風に吹き飛ばされ、悲鳴を上げて地に転がった。
『花夜っ!』
「大丈夫です。でも、今のは一体……?」
『おそらくは言霊の力だ。『来な(クナ)』は侵入を(はば)む言葉。すなわち俺たちを侵入者と見なし、言霊の霊力を(ふる)って阻んでいるのだ。そして、地に脚を突き刺す動作は言霊の霊力を増すための何らかの呪術だろう。もしかすると、地の深くより霊力を吸い上げているのかも知れん』
「では、あの一連の動きを封じなくてはなりませんね」
 花夜は俺の刀身を頭上高く持ち上げ、踊るように振り回し始めた。
 魂振(タマフリ)とは、神体を振り動かすことにより、神の魂を(フル)わせることを言う。そしてその魂の内にある霊力を、(たか)ぶらせ、引き出し、発動するのだ。後の時代の祭で、神体の乗った神輿(ミコシ)(かつ)ぎ、激しく振り動かすのも、この魂振の名残(なご)りと言われている。
 花夜の手により刀身を振り回されるうちに、俺は胸の奥底で何かが熱く(たぎ)るのを感じた。興奮とも衝動ともつかぬそれが、身の内に()(あふ)れ、霊力へと変わっていく。
「ハッ!」
 霊力が満ちたのを見計らい、花夜が気合の声と共に俺を振り下ろした。霊力は風の刃となり、真っ直ぐに男神へと向かっていった。
「クナ!」
 再び男神が叫ぶ。言霊を帯びた風は、俺達の巻き起こした風の刃とぶつかり合い、互いを打ち消し合って消えた。
『花夜!攻撃の間合いが長過ぎる!相手に反撃の(すき)を与えるな!霊力を()めきってから攻めるだけでなく、魂振の合間にも細かく攻撃を加えるのだ!』
「はい!」
 花夜は必死に俺の声に(こた)えようとする。だが、今まで神()まぬ国にいた花夜にとって、これが初めての魂振。勝手も分からぬまま、知識だけを頼りに行っているのだ。即座にそんな器用な真似(まね)ができようはずもない。俺達は男神に傷らしい傷一つ負わせることもできず、ただ体力ばかりを(けず)り取られていった。
『……このままでは(らち)()かんな』
 俺の呟きに、花夜は荒い息で、ただ頭だけを(たて)に振る。
『何か別の手を考えねばならぬのやも知れぬ。せめてあの男神の真名(まな)を明かせれば、弱みが分かるやも知れぬが……』
「あの神様の真名……。正体、ということですか」
 息も切れ切れに答えてから、花夜はしばし考え込む。
「あの神様、初めからずっと、あの場を動きませんね。そして攻撃の際には、必ず地に脚を突き刺し、霊力を得ています。あの神様の霊力の源は……『土』?……いいえ、もしかしたら、あの『場』なのかも知れません」
『あの『場』……。国境に立つということは、境界神(きょうかいしん)か。しかし境界神にもいろいろあるが……』
「国の境……、片脚を地に()き立てる……、外からの侵入を防ぐ神……」
 花夜は次第に自分の考えに没頭(ぼっとう)していく。だが男神はその隙を黙って見過ごしたりなどしなかった。
「クナ!」
 言霊が風となり襲ってくる。
『まずい、()けろ!花夜!』

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